《MUMEI》
珍しい事もあるもので
真夜中のそこは、昼間見る時よりも更におどおどしく、まさに心霊スポット。

何が起きてもおかしくない程の、負のオーラを纏っているように見える。


「すごい…」


好奇心か、恐怖心からなのかは分からないが、優香が続いてそう呟いた。


「確かに。いかにも心霊スポットですって感じだけどさ、ここって入れんの?」


こんな時でも冷静沈着な井上。
優香の意見に賛同したかと思えば、すぐにその場のテンションを下げるのだ。

しかし、井上の疑問も最もで、全く人の手が施されず荒れ放題のマンションの壁は、所々崩れており、中の鉄骨があらわになっているし、おまけに窓硝子も数枚割れている。

こんな家の中に入ったら、お化けの前に、怪我の心配をしてしまうというものだ。


「大丈夫だろ?」


しかし洋平はそんな事お構いなしといった感じで、ズカズカと一人で敷地内に入ってしまった。


「あ!おい!!勝手に一人で行くなって!」


慌てた司は小走りで洋平の後に続く。それに続いて、他の参加者も後に着いて来る。

立入禁止の札は何の意味もなさなかった。


「あれ…?」

「どした?」


扉の前で立ち止まり、困った表情をする洋平を覗き込み、司はその手元をみた。

「もしかして、鍵?」

「掛かってるみたい…」


折角ここまで来たというのに、まさか入れないとは…
無理に壊して中に入れたとしても、近所の住人に知られてしまう恐れがある。


「他に入れそうな所ないの?」


どうしても中に入ってみたいのだろう、優香が不服そうな声を出した。


「んな事言われてもな…」

洋平は辺りを見回してみたが、他に入口などは見当たらない。


「やっぱり洋平は洋平ね。」


ここにいる三人の女子の、いやもしかしたらクラス一気の強い美樹がため息をつく。


「はぁ?どういうことだよっ!?」

「そのまんまよ。あんたいつも計画性ないんだもん。」

「お前なぁ…っ!」

「はい、ストップ。」


喧嘩をし始めそうな二人の間を、真っ直ぐ延びた腕がその空間を切る様に、縦に一本通り過ぎた。

珍しい事もあるものだ。


五人の目線が、一斉に井上に注目した。

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