《MUMEI》
トラウマ
想像していたとしても、私にいじめられることを、想像してると思ったのに、



私がいじめられることを、想像してたなんて……

「僕に懇願する陽菜…苦痛に顔を歪める陽菜…それから、陽菜の綺麗な体が崩れていくとこ…」

そう話す眞季の目は、笑っているのにどこか虚ろで…、その目が恐くて私は、眞季が私のブレザーで腕を縛っているというのに、抵抗すらできずにいた。

「逃げられないよ、陽菜……これから浮気した陽菜にゆっくりお仕置きしてあげるからね」

兄との記憶が、甦った。












…───

「なんでそんなもんが無くなんのよッ!!」

上履きを失くした。
母にそう伝えると、母はヒステリーを起こした。


母がヒステリックになるのも、私を叩くのもいつものことだから、なんてことない。

「…ごめんなさい」

「ママ出かけなきゃいけないから自分で新しいの買って来な!あんなのどうやったら失くせんだよ…」

私に向かって母は、投げるようにお金を渡すと、ブツブツ文句を言いながら家を出て行った。




『あんなのどうやったら失くせんだよ』





私が聞きたいよ…。
悔しくて涙が出そうだったけど、私はグッと堪えた。

「怒られてただろ?」

後ろから兄の声がしたけど振り向けなくて、私は黙っていた。

「母さんも甘いよな…馬鹿は体でわからせないといけないのに」

兄の言葉に、恐怖を感じる。
その言葉だけで、なにをされるか予想はできたから。

「やだッ!ごめんなさい、お兄ちゃんっ!!」

私は兄に縋った。
堪えてた涙は、どんどん溢れ出る。


母のヒステリックも、母に叩かれるのも慣れていたけど、兄だけは慣れることができなかった。

「ダメだな…悪い子にはお仕置きだ」

そう…。
私は兄の言う『お仕置き』だけは、ずっと慣れることができなかった。











やだやだやだ!ごめんなさい、お兄ちゃん、ごめんなさい!!














───眞季の目を見ていると、あの日の兄を思い出す。
“お仕置き”という言葉の恐怖に、支配されそうになる。






お兄ちゃんじゃない、お兄ちゃんじゃない…。

大丈夫。
今、目の前にいるのは眞季。






自分にそう言い聞かせたけど、眞季に耳を触られた瞬間、私の体は情けないくらいに反応してしまった。
眞季は、そんな私を見て笑う。

「どうしたの?僕より敏感な反応だね」

そして私の耳や、顔を撫でながら、またあの虚ろな目をした。

「想像できる?白い肌が紅く染まるとこ…縄や鞭の跡で傷つくとこ…可愛い突起に針が刺さるとこ…」

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