《MUMEI》 汚れた自分眞季の言葉を聞いた瞬間、あの拷問を受けている女の人の映像が、脳裏を過った。 「…さ…ぃ…」 震えてうまく声にならない。 「なに?聞こえないよ?」 これから眞季は、兄よりも酷いことをしようとしている筈。 なのに、まるで子供を相手しているような、優しい口調で言う眞季が怖くて、私は幼い頃、兄に縋ったように眞季に縋った。 「ごめ…ん、ごめん…なさぃ……もう、あんなこと、しないから… 許して」 「あんなことって?」 今まで私が眞季にしてきたことを、諭すかのように眞季が聞いた。 だから私は、許してもらうのに必死だった。 「怖かったの…すごく、怖かったの…あたしの物で、あんな、ヘンなことして…」 うまく息ができない…。 うまく喋れない…。 「毎日、部屋、覗いたりして、るし…高校だって、一生懸命勉強して、やっと離れられるって…思っ、たの、に…」 「そうだよ…、いつでも陽菜といられるように頑張ったんだよ?だから今、こうしてられるんでしょ?」 「そういうのが怖かったの!だから、あたし…」 「わかってるよ、大丈夫…女のフリさせられてきたのも陽菜の前で他の女としたのも、今までのこと全部…陽菜が喜んでくれてるって思ったら興奮できたから気にしてないよ…でも、浮気は許せないんだ」 違う…。 違う…あんなの…嫌に決まってる。 先輩のことが原因の中のひとつであったとしても、私がしてきたことを怒ってるに決まってる。 「怖がらないで…そりゃ、お仕置きは怖いかも知れないけど…それは陽菜が悪いんだもん…我慢しなきゃ……終わったらちゃんと優しくしてあげるから…。ね?」 私は眞季に殺されてしまうのかも知れない、漠然とそう思った。 眞季の舌が私の耳に触れ、眞季の言う『お仕置き』が始まったんだ、と思った私はパニックになった。 「いやぁッ!いやぁぁあぁあッ!!」 暴れる私の髪を、眞季が撫た。 こんなに暴れているのに、冷静な眞季が異常に見えて恐怖心が増す。 兄はもっと、怒鳴ったりする人だった。 怒鳴ったり暴れたりして、私の恐怖心を煽ってた。 なのに眞季は、なんでこんなに冷静なの? まるで心が無いみたいに…。 「お願い、やめて!話聞いて!あたし……」 「大丈夫だよ、陽菜…初めてだもんね?」 どうにかして、今を脱け出そうと思っていた私は、眞季のその言葉を聞いて、少し冷静になれた。 「それも僕がちゃんと教えてあげるから…ちゃんと勉強したんだよ、陽菜の為に」 眞季は私が、処女だと思っているんだ…。 今まであんなことをしてきたのに、眞季は私が経験無いと思ってる。 そう考えたら、眞季が先輩のことで怒ってる意味も、わかった気がした。 処女なんか、とっくに失くした汚い私を知れば、眞季も幻滅する。 私は心を落ち着かせる為に、大きく深呼吸をした。 「…初めてじゃ……ない」 思った通り、眞季は驚いた様子で、私の顔を見た。 「陽菜…処女…でしょ?」 「やめてよ…、あたしを美化しないで。処女なんてとっくに捨ててるし、セックスなんかに抵抗ない…」 私はそこまで言ってから、小さく息を吐いてから続けた。 「でも今は違うの」 「なにそれ…?」 眞季が怪訝な表情をした。 「先輩と付き合ってるって言ったでしょ?初めてなの…こんな気持ちになったの…誰としても変わらない、あんなの汚いだけって思ってたのに、今は先輩以外の人に触られることに抵抗あんの…」 眞季は眉間に皺を寄せたまま、私の話を聞いていた。 「それに…」 『眞季は』そう言いたかったけど、眞季の名前を呼ぼうとすると、声が出なくなる。 「今まで…私の弟みたいに感じてたから…男女の関係とか…そういうのは考えられない」 黙ったままでいる眞季に、私は少し不安になっていた。 「でも、今はそうじゃなくなっちゃったけど昔は大好きだった、たぶん今も特別な存在には変わりないと思う…感謝してることも、たくさんあるの」 眞季はまだ、黙っている。 「全部…私が悪いよね…」 そこまで話すと、頬が熱くなって次の瞬間、私は倒れていた。 前へ |次へ |
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