《MUMEI》 ハサミは取り扱っておりません. 48…49個目…。 指先を浮かせた拍子に、今まさに積まれた物も含めて49枚の百円玉が、僅かに揺れた。 「…オイ、志藤」 「………」 『志藤』と呼ばれたジャージ姿の人物は、男性の呼び掛けには何ら反応を示さずに、50枚目の百円玉を手に取った。 男性は、積み上がった百円玉タワーをチラリと見る。 崩してやろうとも思ったが、もはや百円玉タワーはそれを実行すれば周りに被害が及びそうなほどの規模になっていたため断念せざるを得なかった。 男性は、溜め息を吐いて肩を竦める 「…スゴいはスゴいんだが…」 男性は手にしていた本を丸めた。 「…今は授業中だろう?」 教師の呆れた声にようやく顔を上げる、志藤。 心情も、性別すら分からない表情で、教師を見上げた その右手は、タワーのかなり上方に50枚目の百円玉を掲げている 「俺には…必要ねーっすから」 教師の眉が不快そうにピクリと動く。 教室もざわめき始めた。 教師を見上げたままに口角だけで笑って、志藤が指を開く。 落ちた百円玉はタワーに揺らぎを招きはしたが崩すこと無く、頂上を誇らしげに飾った。 増したクラスメイト達のざわめきを楽しむように、志藤はタワーの下に敷いていた、透明無地の下敷きを抜き取った 「他の皆の邪魔は、してないつもりなんですが…」 その下敷きで顔を扇ぎながら、イスから立ち上がる 「不快なら、退場しますわ。そいじゃ、俺…トイレ行って来ます。…あ、《欠課》にしてくださって結構スから」 何かを押し殺すかの様に眼を閉じた教師の横を通って、志藤は教室のドアに手を掛け 「ふふ…」 親友二人に親指を立てて見せながら、教室を出た。 次へ |
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