《MUMEI》

隣国・ニカローゼ国、セネニアの町の名家・クレッツレイア家の屋敷より〜






「クラレ、支度はどう?できてる?」

まだ、朝早いと言うのに、クレッツレイア家の屋敷は、騒がしかった。
特に、リリーネは娘・クラレのことをが心配で、ずっとそわそわしていた。
でも、それも無理はないだろう、だって今日は、なにせ“大切な娘・クラレが、初めて一人で隣国へ出掛ける日”なのだから。
クラレは、まだ15歳にもかかわらず、容姿端麗で他国から婚約の申し込みが、あとをたたない。
娘を一人で他国に出掛けさせるなんて、リリーネは、もちろん反対だった。
けれど、クラレは、“どうしても、他国へ行きたい”と、
反対だったリリーネに頼んで許しを得たのだ。

「お母様、今日はありがとう。私、すごく楽しみっ!!」

クラレは、そう言って笑うと、くるくるリリーネの前で回り始めた。

「あぁ、クラレ…あなたのポジティブさには、びっくりたわ。私は、もう…心配で心配で…。
どうにか、なりそうだわっ!!」

「安心して、お母様。私は、大丈夫よ♪
迷子になんか、ならないし♪なにせ、隣国だもの。」

「隣国でも、危険なのよっ!あぁ、神よクラレの加護を…。」

「もう、お母様ったら本当に心配性なんだからっ!」

こうして、クラレは心配性の母を残して一人で隣国へ出掛けたのであった――。







*************








ラシュハルト国・バルシュールルの町、市場にて〜


「ふぅん、ここが、ラシュハルト国ね。」

クラレは、無事、ラシュハルト国へと着くことができた。
時刻は、11時でバルシュールルの市場は、それなりに人がいて、辺りは賑わっていた。

「うふふ、初めてだから、楽しいなぁ♪」

クラレは、そう言いながら、初めて見る景色に、目をきらめかせていた。

「海沿いだから、海が見えるっ!すごーいっ、……ニカローゼからは、見えないからなぁ。綺麗。」

海の景色を観ながら、クラレは市場へと足を運ぶ。
すると、近くから……

「うわっ、悪魔だっ!!逃げろー!!!呪われるぞっ。」

と、何人かの少年の声がした。
……!!?なんてことを言うのっ!?
私は、その言葉に怒りを感じた。
そして、声がした方を見る。

―バタバタッ!!!!

少年たちは、もうすでに逃げていた。
そして、その少年たちの背中を一人、ただ見ていたのは、短い髪をして綺麗な金髪の少女だった。
……さっきの少年、あの娘に向かっていったのねっ!!
でも、少女は何も少年に言わず、ただ走り去る少年の背中だけを見ていた。
私は、その少女の事が気になり目を離せなく…話し掛けてみた。

「あの子達、失礼な子ね!!
まったく、親の顔を見てみたいわっ!!
貴女も、なんか言い返せばいいのに。」

少し、ストレート過ぎたかもしれない、と少しびっくりしている少女の顔を見て思った。
でも、言い返さなかったのは、少しなんでって思ったんだ。
しばらくして、少女は不思議そうに私に言った。

「私のこと…嫌ってないのか?……。」

「ふぇっ……?な、なんで会ったばかりなのに、嫌う必要が?」

「……っつ、あ…もしかして、他国の人…?」

「えぇ、隣国のニカローゼ国から来たのっ!」

それを聞くと少女は何か納得したようだった。
……?????
なに…??さっきから……、突然“嫌ってないのか”なんて……。
もしかして、いじめられてるのかな……??

「……それなら、私に話し掛けない方がいい。あと、近づくな。じゃないと…貴女まで、変な目で見られてしまう――。」

やっぱり、…いじめられてるんだ。

「大丈夫だよっ!!私、貴女と友達になりたいな♪」

「えっ……???」

私の言葉を聞くと、少女はとてもびっくりしていた。

「ダメ…??」

「あ…んん、いや…。でも…貴女まで…」

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