《MUMEI》
交代
僕は意識の無くなった陽菜の体からロープを外し、その代わりに手足をベッドのパイプに手錠で繋げてあげた。
それから家からでも携帯で、部屋の様子を確認できるカメラをセットして、家を出た。







買い物をしながら、陽菜の行動を確認した。


陽菜は目を覚ましたのか、少し動いて辺りを見回してから、泣きそうな声で僕のことを、何度も繰り返し呼んでいる。
その声はまるで、迷子になった子供が、母親を探しているような声だった。

もう何年も僕の名前なんて、呼んでくれてなかったのに…。








やっぱり陽菜は、僕がいないと、ダメなんだね……。











途中、僕は陽菜と小さい頃、よく行った公園に寄った。


公園のベンチに座って、公園を眺めていると、いろいろな記憶が甦ってくる。

夏休みに家出ごっこをしよう、なんて言い出した陽菜が、僕たちの家にしたのも、この公園だった。

今森の犬だ、なんて言って僕をからかう佐伯たちを、陽菜が怒ったのも、この公園だった。


何年か経って、それが本当になって陽菜の為に、佐野さんのオシッコを飲んだのも、この公園だった。



















そして今は……──










「ただいま陽菜…、いい子にしてたみたいだね。僕がいなくて寂しかったんでしょ?」

僕は陽菜の横に座って、髪を撫でた。

「寂しくなんてない、あたしはただ帰りたいだけ」

さっきの陽菜は何処に行ったのか、陽菜はまた反抗的な目を、僕に向けた。

「まだ強がるんだね、あんなに不安そうに僕を探してたくせに…」

陽菜は驚いた顔をした。

「僕に隠し事はできないんだよ」

「ずっと…見てたの?」

陽菜の声は、震えている。

「僕は陽菜のことなら、なんでも知ってるからね…。それよりこれ見て?」

僕は今買って来た袋を、陽菜に見せた。

「なにそれ…」

陽菜が明らかに、警戒した表情で僕を見た。
僕は袋から、赤い首輪とリードを取り出した。

「可愛い陽菜にプレゼントだよ」










今まで僕は陽菜の犬だったけど、今日から陽菜が僕の犬だよ……。

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