《MUMEI》

棚に並んでいる本を見て、男は唸った。

(…何語だ?)

自分の知り得る文字が無かったのだ。

目についた一つを手に取り、適当に捲る。

「ダメだ、さっぱり分からん」

解読を諦めて元の位置に戻し、背表紙を眺める。

ぼーっと見ていると、読める文字が目に飛び込んだ。

どうやら自分の国の言葉らしい。もしかしたらミミズにインクをつけて這わせた物かも知れない。

「エ…読めん。辞書…? 辞書なのか」

しかし、全てが読めない事はないので、それを開いてみた。

意味不明な文字の横に矢印が書いてあり、その後ろに自分の読める言葉が書いてある。

「何かの翻訳か?」

ふと、「感謝」という単語を見つけた。

「これだけ覚えていれば、なんとかなりそうな気がする」

幾度かその言葉を口に出し、練習する。

「んー…」

自分とは違う声。ベットから聞こえたあたり、少女が起きたのだろう。

起きあがる様を、微笑ましく見ていた。

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