《MUMEI》

「二郎、七生君家に煮物おすそ分けしにいってくれない?」


「えー!」
頭こんがらがっているときに!


「すぐ隣なんだから」
俺ってつくづく押しに弱い……。
結局、制服のまま七生の家に。
内館家のインターホンは故障しているのでいつも勝手に中に入る。


内館親子は片付け下手で常に物で溢れている。

足元を掃除しながら中に進んでいく。
あ、これアルバムだ。うわ、皆若い。
七生の母さん……俺は写真でしか見た事ない。綺麗な人、柔らかい、儚いかんじ。七生が二歳のときに亡くなったんだ。
頁をめくるたびにだんだん写真の中の俺達は成長していった。

……これは今年の学祭の。ぶっ!誰だよ七生とツーショットなんて撮ったやつ!

ちょうど二人の写真で最後だったようだ。



ついアルバムに見入ってしまった。七生は……トイレ?一応煮物置いてあることは伝えとくか。



トイレ前でノックしようと手を構える。


『…………ン、……じ …………ろ ゥゥ』




………呼ばれた?


「何?」
無意識に返事をしていた。


ガタガタと扉が揺れる。





……ジャー……


水が流れる音と共にわずかに開いた扉の隙間から七生の顔が出てくる。


「…………どうした?」
そっちこそ。


「煮物がテーブルの上にあるから。」
伝えることは伝えたし、帰ろう。


「……あ、あのさ」
七生が数本指を握って引き止めた。手を拭けよ!水でびちゃびちゃだ。

「ビデオ録画出来る?」





「……まだ覚えてないのかよ。」
俺は、やっぱり押しに弱い。

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