《MUMEI》

少女は彼の発言を、震える声で復唱した。

意味的には「助けてくれてありがとう」と言ったつもりだが、ちゃんと伝わっているか怪しい。

屈んでいるのも辛いので、ベットに座ることにした。依然として少女は出てこない。

しばらく隠れている影を眺めていたが、あまりにも進展が見込めない。仕方なしに本を読むことにする。

「とりあえず、挨拶くらいは覚えるか」

ぶつぶつと呟きながらページを開いていく。

辞書は見た目よりも、数倍も内容が濃かった。何よりも解説が細かかった。

「取説かよ…見難い」

ご丁寧に使用例まで書いてある。何かの雑誌にも思えてくる。

しかしそれはそれでありがたかった。ただ、発音が理解できないが。

悪戦苦闘していると、彼は気付かなかったが、少女が興味深そうに見ていた。

うずうずしているのだろう。しきりに様子を伺っている。

辛抱ならなかったのか、少しずつ、静かに足を踏み出してきた。没頭していて、そろそろと歩いてきているのを全く感じていなかった。

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