《MUMEI》 後ろからのぞき込んでくる視線に、ようやく気付いた。 遠目から読もうと懸命になっており、とても可愛らしく思う。 だがここで少女に悟られれば、また逃げられるだろう。それこそ部屋の外まで行ってしまいそうだ。 男は気が付いていないフリをして、辞書を読み続ける。 5ページぐらいめくった所で、背中に何かが当たった。 振り返ってみると、少女がおどおどしていた。申し訳なさそうな目をしている。 それを見て、彼は微笑む。辞書を一緒に読めるような位置に置き、ジェスチャーで促した。 すると少女の表情が明るくなり、嬉しそうに隣に座った。無垢な幼い声で何かを言われた。 思わず困った顔をしてしまう。不思議そうに見られた。 まず、相手に言葉が通じない事を伝えなければいけないようだ。 机からはペン、そしてその辺にグシャグシャになっていた紙を拾い、辞書の中から必要な単語のみを調べ、書き方も分からないが出来るだけ似せて文字を書いた。 前へ |次へ |
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