《MUMEI》

彼の伸ばした手は無視され、妹から少し離れた場所に座った。

男は小さなため息を吐き、元居た場所に座り込む。

ペンを片手に、姉は適当な紙を探しているようだったので、手近にあった一枚を渡す。隣の妹に頼めば良かったのに。

どうやら少女は姉の事がキライらしい。あからさまな嫌がらせが多いのだ。

複雑な家庭なのだろうか。だが決めつけるのは良くない。ただ単に仲の悪い姉妹かも知れない。

いい加減マトモな質問をしようと、辞書を引きながらエルフ語で組み立てる。

「お父さんと…お母さんは…どこかな、と」

彼女らに見せる。

『買い物』

ごく僅かな文を書いたのは姉だ。

『仕事は休みだから、二人でデートもしてる』

そこに付け足すように妹が説明してくれた。詳しい上に見やすくて助かる。

と、次の質問を書いている途中に、ドアの開く音と声が聞こえた。少女が嬉しそうに飛び上がり、騒がしく部屋から出ていった。

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