《MUMEI》

どうやらお帰りのようだ。飛び出ていった声が近付いてきているのは、両親を引っ張っているからだろう。

開きはなしたドアから顔が覗く。少女ではなくメガネを掛けた男だった。警戒しているらしく、少し強ばっている。

男が部屋に入り、その後ろからショートカットの女性が入ってきた。彼女らの母親だろう。妹さんを抱きしめている。

二人ともピリピリしていらっしゃる。警戒するくらいなら人間なんか拾わなきゃ良かったろうに。

余所者の彼の前に二人ともが並んだところを見計らい、紙に文字を書く。今さっきまで教えて貰っていた事を早速使う。

「はじめまして…と、手当てありがとうっと」

見せる際にものすごく怯えられたが、まあ仕方ないだろう。人間の、エルフに対する扱いがヒドいのを知っているから。

再び自己紹介をし、相手に自分の情報を伝えた。これである程度は安心出来るだろう。

それでも警戒は解けないらしく、訝しげに見ている。

いつの間にか彼の隣にいた姉が何かを主張した。初対面なのにわりと必死に話してくれている。

だが父親の一言で制された。本当にどういう家庭なのだろう。

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