《MUMEI》

 「咲殿、さくら殿、転ばないように気を付けて」
到着した自然公園
鈴の言葉通り人通りも少なく、九重は安堵に肩を撫で下ろしていた
誰かに見られはしないかと内心気が気ではない九重
そんな九重の心中を知ってか知らずか
くさ一行は漸く歩く事を始めたばかりの双子達と楽しげに戯れている
「智一さん」
その様を気の木陰に座り込み眺めていると、不意に鈴の手が眉間に伸びてくる
何事かと彼女の方を仰ぎ見れば
「眉間に皺、寄っちゃってます」
言葉通りに眉間を指で押さえられた
ほぐす様なその動きに、九重は漸く表情を柔らかに
漸く肩を撫で下してやれば
「くささんが来て、私は良かったと思ってます」
「いきなり、どうした?」
「何となくです。智一さん、見てください」
そう言いながら鈴が指差した先には
楽しげにくさ達と戯れる子供達の姿
楽しげなその様に、鈴が何を言わんとしているかを九重は理解した
「……ま、こういうのも悪くない、か」
「はい。悪くない、です」
「もう暫く、家に置いてやるか」
鈴の髪を柔らかく梳いてやりながら追うてやれば
嬉しそうな笑顔が目の前
満面の笑みを鈴が浮かべて見せれば、同時に九重の腹の虫が鳴り響く
「腹、減ったな」
自身の腹をさすってみせる九重へ
鈴はまた笑みを浮かべると、持ってきたバスケットを取って出す
「くささーん!皆さんも!ごはんにしましょう!」
レジャーシートを広げ、その上へと様々並ぶ鈴特製の弁当
少しばかり離れていた処で遊んでいたくさ達が一斉にその弁当へと群れをなす
「咲、さくら。お前らはこっち」
くさ達に釣られ、その中へと入って行こうとする子供達へ
九重はベビーフードの封を切ってみせる
食欲旺盛な子供達もそれにパクつき、賑やかな食事風景
その様を苦笑交じりに眺めながら
九重はこれからも続くであろうくさ達との共同生活に溜息をついたのだった……

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