《MUMEI》

 「……ここ、何処だ?」
翌日、意識を取り戻した羽野は見覚えのない場所にいた
所々が朽ち剥がれかけている土壁
自身が寝ていたらしいベッドは使われていなかったのか饐えた臭いが鼻を突く
ゆるり身を起こし、周りを見回してみるが人の気配はない
だがその事を深く追求する事はせず、羽野はベッドから降りる
割れた窓から見える外は白んだ朝焼け
その珍しい色にそして眩しさに目を細めながら
手近に置いて在った上着、恐らくは近藤が置いて行ったのだろうそれを羽織り
一応はまた辺りを見回し居ない事を確認すると踵を返しその場を後に
一緒にB.Sに参加しろ言い出したのは向こう
それなのに姿を消すというのはどういう了見か
何となく釈然としないまま目的もなく街中を歩いていると
「おい。秋夜」
背後から耳になじんだ声が聞こえてきた
向いて直って見れば其処にいたのは和人
だがその姿は以前のソレではなく、い様なモノの様に羽野には見えた
全身が、血塗れなのだ
滅多なことでは驚かない羽野も流石にソレには表情を強張らせる
「どうしたんだよ。秋夜。変な顔して」
「和人、お前……」
「あ?ああ、これ?さっきまでこれ探してたからな」
和人が握りしめていた手の平をゆるり開いて行く
其処には同じように血に塗れている黒い球体の様な何かがあった
「綺麗、だよな。Black stones。こんなにも綺麗だなんて知らなかった」
「それ、どうした?」
「ん?これ?ああ、何かいい匂いがする奴がいたからさ。引っ捕まえて身体抉ってみたんだよ」
これで、と和人が投げて放ってきたのはナイフ
血に濡れているそれは嫌な臭いを漂わせながら赤黒い艶を帯びている
「……和人」
「なぁ、秋夜。俺と来いよ。お前、何かすっげぇいい匂いがするからさ」
言うや否や和人が素早く事を起こす
目の前から瞬間に消えたかと周りを見回せば背後にその気配
咄嗟に身を翻すが間に合わず
首に強い衝撃を感じる
「……っ!?」
呼吸が瞬間に止まり、ゆるり視界が暗転していく
薄れて行ってしまう意識を自覚しながら、何とかそれを保とうと堪え
だがそれは叶わず、羽野はそのまま落ちる様に意識を手放してしまう
「……秋夜、つーかまえた」
まるで至福といいた様に恍惚とした笑みを和人は浮かべながら
羽野の身体を軽々と抱え上げ、そのままその場を後にしたのだった……

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