《MUMEI》
 T
「あなた、落ち着いてっ」


多分朝方だったと思う。

お母さんのそんな声が耳に入ったの。

私、何歳だったっけ?

小学2年くらいだったかな。


まだ小さすぎた私には、目の前で何が起こっているのか全く分からなくて。

ドアの隙間から見えたのは、大好きなお母さんに暴力を振るう、大好きなお父さんの姿だった。


…何で?どうして?


そんな言葉ばかりが頭の中を駆け巡る。


気がつけば、私はいつの間にかお父さんにしがみついていた。

"やめて、やめて"と、叫びながら。

だけど、お父さんはやめなかった。

むしろ、私にまで暴力を振るって。


あんなに優しいお父さんが。

いつも笑っているお父さんが。


暴力を振るうお父さんには、優しさも笑顔もなかったけど、何故か悲しい表情をしていたの。

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