《MUMEI》

都内の小さな拳法道場。
毎週末、僕はここに通っている。
鍛練の合間、休憩がてらに自分の混乱について考えてみた。

「なにぼーっとしてるの、和?」

むっつりと黙り込んでいると、後ろから凛に声をかけられた。
振りかえれば、彼女は茶色がかった瞳をくるりと丸めて、首をかしげる。

「どうしたの?そんなに不機嫌な顔、珍しい。」

心配そうな問い掛けに、慌てにこりと笑ってみせる。

「いや、ちょっと寝不足気味で。」
「え、じゃあ、無理に鍛練しちゃだめよ。気持ち悪くない?」
「いやいや、それほどじゃないから。大丈夫ですよ。」

そう?と訝しげに見つめてくる様子に、胸の奥がふんわり暖かくなる。
そうだ。こんなふうに可愛い年下の女の子にときめくっていうなら、納得できるんだ。
大丈夫、ともう一度言って視線を戻すと、僕の混乱の種が他の道場仲間と組み手をしていた。

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