《MUMEI》
ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア05
立ち上がったケンゴは、
更に小さく見えたイズルに申し訳ない気持ちを感じていたが、自分も強くなる為に芽生えた感情を間引いた。

ドアノブに細長い布が、
ぶら下がって足元に落ちたがケンゴはこの暗い部屋では拾うことが出来ずに、そのまま部屋を出た。

階段を静かに降りていくと、
愛梨ちゃんがロケット花火のように元気よく飛び出してきた。

「ケンゴ兄ちゃん!ケンゴ兄ちゃん!いっしょにゴハンたべよ!」
もうすっかりイズルの事は忘れているようだった。
「ごめんね〜あいりちゃん。また、今度ね〜。」
小さな頭をなでるケンゴ。

「あら、いいじゃないの。食べてってよ〜。」
暖簾の向こうからイズルのお母さんが覗き込むようにして言う。

「何も言わずに、ここまで飛んで来たので、はやく帰らないと…」
「あっ、それはごめんなさいね。悪いことしちゃったわね…」

トントントンとスニーカーを履いて、2階にも聞こえるように挨拶をした。

「おじゃましましたー。」
「バイバイ、お兄ちゃん…」
物憂げな表情を浮かべる愛梨。

「うん、じゃあね愛梨ちゃん、また来るからね。」
目が無くなってしまうくらいのケンゴの満面の笑みを見た愛梨は、つられて笑った。

外は10月だというのに
ため息は白く濁った。
何の気なしに見上げた空は
疲れきった星が輝いている。

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