《MUMEI》
瞳の奥
「自分ばっかり気持ち良くなってないで奉仕もしなきゃ」

座った私に、眞季が言う。
気持ち良くなんかなってない、好きでもない人に触られて気持ち良くなんてなれない、そう言いたかったのに、私の意見は言葉の途中で否定された。

「なってたでしょ?足震わせて…オマ●コもビチョビチョだったよ? 嫌がってたくせにあんな濡らして陽菜はエッチだね……」

眞季の言葉に、自分の顔が熱くなったのがわかって、私はそれを隠すように眞季から顔を背けた。

「恥ずかしがらなくていいんだよ…僕はエッチな陽菜も好きなんだから……だから、ちゃんと僕も気持ち良くして?キスしたあとどうしたらいいかもちゃんと教えてあげるから……」

「…キスしたあとって……なに?」

「フェラだよ…わかるでしょ?オチ●チン舐めるんだよ」

眞季の言葉を聞いた瞬間、幼い頃の光景が脳裏を過った。

「いや……絶対いや…そんなの…したくない」

「だって我慢しすぎて破裂しそうだもん……今までずっと我慢してきて今も挿れたいのに我慢してるんだよ?」

「そんなの知らないよ!」

私はたまらず叫んだ。

「ダメだよ、陽菜…なんでもするって言ったんだから言うこと聞かなきゃ」

「でも、嫌ッ!!どうしてもムリ!!あんたなんかの舐めたくないッ!!!」

もういい。
もう嫌だ。
逃げたい。


眞季に情けないとこを見られてもいい。
今までの私が、崩れても構わない。
とにかく眞季から逃げたい。

そう思って、逃げようと立ち上がった私の腕を眞季が掴んだ。

「どこ行くの?」

笑顔で言う眞季に、言い知れぬ恐怖が込み上げる。

「帰りたい……お願い、放して、帰してぇ…」

もう訳がわからなくなって、涙が溢れた。

「僕からは逃げられないって言ったでしょ?陽菜がそんな考えなら仕様がないね」

眞季は立ち上がると机の引き出を開け、何かを取り出した。

「ほんとはこんなことしたくないんだけどね?…普通の恋人同士みたいに愛し合いたいんだけど……陽菜がいい子にしてないから…」

そう言う眞季の手には、ロープとベルトが握られている。




お兄ちゃんと一緒だ……。






忘れたくても忘れられない過去を、思い出した。
ベルトで叩かれるのが、どれ程痛いか、体が覚えてる。


眞季は兄と同じ罰を、私に与えようとしといる筈なのに、眞季の表情は、兄と違った。
怒りを露にする兄と違って、眞季は微笑んでいる。


けど、その瞳は死んでいるように暗く、怖くなった私は立っていることさえできず、その場に座り込んだ。

「そんな顔しないで?僕はただ、 真鍋のときみたいに素直になって欲しいだけなんだよ?それなのに…そんな表情されたら…」

言いながら眞季が、私の顔を撫でた。
そして低い声で、

「もっと泣かしたくなっちゃう」

と言った。

「でき…ない……できない…」

頭の中はパニックで、上手く言葉にできなかった。


ただ、これ以上はもう耐えられなくて、自分を見失いそうで私は、泣きながら首を振った。

「できるよ……陽菜はいい子だもん」

「できな、い…ッ……できないぃ …」

私は子供に戻ってしまったように、激しく首を振りながら泣きじゃくった。

「ねぇ、覚えてる?陽菜が初めて僕に涙を見せた日のこと…」

初めて涙を見せた日?
眞季の言う遠い過去を思い出せず、私は眞季を見た。

「パンツが無くなった日のことだよ…陽菜が僕にだけ涙を見せてくれた日のことだよ……」

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