《MUMEI》 「今までどうしてたんだ?」 ユウゴは前を歩くサトシに尋ねた。 身長が伸びたように思える。 しかし、体格がよくなったわけではない。 むしろあの頃より痩せていることがわかる。 サトシは振り返らずに答えた。 「親戚の家にいるんだ、今」 「そうか。学校とか、ちゃんと行ってるのか?」 「うん……、まあね」 あまり話したくなさそうな雰囲気にユウゴは口を閉ざした。 普通の生活に戻れるわけがないことはわかっているのだ。 何をバカなことを聞いたのだと自己嫌悪に陥る。 ユウゴが黙っているとサトシは息を吐くようにして笑った。 「あれからずっと監視がついててさ。ほら、もしかしたら兄ちゃんが接触するかもしれないだろ? だから僕には誰も近づかないんだよ。親戚の人も腫れ物扱い」 「監視って、そんなあからさまにされてるものなのか?」 「最初はね。四六時中見張られてた。家に帰っても家の周りには常に数人監視がいたし」 それがどれほど精神的に苦痛なのか、ユウゴには手に取るようにわかった。 「ごめんな」 ユウゴが謝ると、サトシは少し振り返った。 その顔には諦めのような笑みが浮かんでいる。 「兄ちゃんが謝ることじゃないよ。さすがに半年以上も接触がないんで、最近は緩いんだ。僕なんかよりも兄ちゃんのが大変でしょ。懸賞金までかけられてさ」 「知ってるのか」 「もちろん。兄ちゃんの情報はネットでチェックしてるんだ」 「どんな情報があるんだ?」 一度だけネットで調べたが、あのときは自分に懸賞金がかけられていることしかわからなかった。 あれ以来、ネット環境に触れる機会がないのだ。 もし目撃情報がリークされているようならば、今後の動きにも注意が必要になる。 「話はまず、そっちの人を医者に見せてからのほうがいいよ。今にも死にそうな顔色だよ」 冗談で言ったのではないだろう。 実際、背中に感じるケンイチの体温が低くなってきている。 ユウゴは頷くとサトシは歩くスピードを上げた。 前へ |
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