《MUMEI》
3
「今日は三原さんは来んのかのう」
夕方、学校も終わり日課としていた境内の掃き掃除をしていた最中だった
突然のソレに、だが安堂も同じ胸の内だったのか小さく頷いて返す
「稔は、三原さんの事が好きかね?」
「え!?」
行き成り何を言い出すのか
思いもかけない祖父からのソレに、安堂が動揺を始める
忙しく竹箒を動かし、辺りに散りを撒き散らしていた
「そんなに動揺せんでも。全く稔は初じゃのう」
「お、おじいちゃんがいきなりそんな事言うから!」
「照れんでもよかろう。で?どうなんじゃ?」
「ど、どうって言われても……」
返答に困る、と口籠らせながらも顔は真っ赤で
始めは無意識に
段々とそれを自覚してきたのか、安堂は頬を両の手で押さえながら
恥ずかしさに俯いてしまう
「……ヒトを好きになる事を恥じる事はない。そうじゃろ?稔や」
「お爺ちゃん……」
「(恋神様)とて恋はする。他人の恋路ばかりに気を取られる訳にはいかんじゃろう」
「わ、私は、別に……」
何を言って返せばいいのか解らず口籠ってしまう安堂
暫く続いてしまう沈黙が居た堪れなくなり
慌てた様子で集めた落ち葉等のゴミを散り取りへと集め始めた
丁度その時
石階段を上がってくる脚音が聞こえてくる
一瞬、三原かと期待した安堂だったが、複数聞こえてくるそれにすぐ違うと気付く
「あっ!今日は恋神様がいたよ!」
訪れたのは、複数の女子高生の集団
その中に安堂は見たことのある顔がある事に気付いた
「倖君の……!」
三原の妹
お互いが顔を見合わせ、軽く会釈を交わす
「今日和。この間は驚かせちゃって、ごめんなさい」
「え!?あ、あの……!」
「私とお兄ちゃん、いつもあんな感じだから。本当にごめんなさい」
安堂を泣かせてしまったという罪悪感がかなりあるのか何度も頭を下げてくる妹へ
安堂は慌てて首を振って見せた
安堂を驚かせてしまったという罪悪感がかなりあるのか
何度も頭を下げてくる妹へ
安堂は慌てて首を横へと振って見せた
互いが互いに頭を下げ続け、暫く後
どちらからともなくソレを止めると、何か用があったのではと安堂は居住まいを正す
「そうだった!あのね……」
何故か言い辛そうに口籠る
安堂はどうしたのかと小首を傾げてみれば
「……恋守りと恋絵馬、一つずつ下さい。お兄ちゃんに頼んだんだけど、やっぱり自分で買った方が御利益あるかなって」
顔を真っ赤に伏せてしまった妹へ、安堂はフッと顔を綻ばせる
そして小走りに社務所へと向かうと、その二つを取ってきた
「アナタに、恋神様の御利益がありますように」
満面の笑みを一緒に手渡してやれば
妹もまた同じ様に笑みを浮かべ頷いた
手を振りながらその場を後する妹へ、安堂も手を振って返しながら
その姿が完璧に見えなくなると無意識に溜息をついた
「稔や」
暫くそのまま立ち尽くしていると
様子を窺う様に祖父が背後から声をかけてくる
呼ばれてすぐに顔を上げた安堂
何とか作った笑みを浮かべて見せながら、どうしたのかを返していた
「……自分自身の恋も、願ってもいいんじゃよ」
「……え?」
「神様とて恋はする。そうじゃろ?」
祖父の言葉に安堂は瞬間解らず呆然
だが、すぐにその意味を理解し動揺する事を始める
「お、お爺ちゃん……!?」
「頑張るんじゃよ。爺ちゃんは応援しとるよ」
言いながら祖父が前を見据える
突然のソレにどうしたのかと、安堂も同じ様にそちらへと視線を向けてみれば
石階段を上がってくる脚音が聞こえてくる
その音は最近、すっかり聞き慣れてしまったソレで
「倖君!」
訪ねてきたのはやはり三原
安堂は嬉しさに小走りに掛け寄り
その途中、見事に脚を縺れさせ転びかけてしまう
「わっ……!」
転んでしまうと眼を瞑ってしまい
だがその身体を三原の腕が柔らかく受け止める
「相変わらず、ドジだな」
困った様な笑顔が目の前
向けられる優しい眼差しに胸が高鳴り
安堂は自身の気持ちを漸く理解する事が出来た
「……こんなの、初めてです」
「何が?」
安堂の呟きに、何の事かと顔を覗き込んで来る三原
間近に寄って来たその顔に、安堂は驚いたように首を振りながら何でもないを返す

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫