《MUMEI》
間違った行動
当たり前のことだけど、こんなものを書かせたって、法的効果はない。


だけど、この文書を朗読させて、サインさせることは陽菜の精神を拘束するのに、充分だろう。
その証拠に陽菜の瞳からは、反抗心が消えていた。

「陽菜、ちゃんと書けた御褒美は何がいい?」

陽菜は僕の顔色を伺うようにしてから、弱々しい声で、

「舐めさせてください」

と言った。

「舐めたいの?」

陽菜が頷く。

「何を舐めたいの?」

陽菜は俯いてしまう。

「…ねぇ…陽菜…どうして嘘つくの?」

僕が尋ねると陽菜は、怯えた表情で僕を見た。
『奴隷誓約書』にサインをしたからといって、僕を舐めることを嫌がってた陽菜が、そんな急に舐めたくなるわけない。



それに陽菜は、そんなに馬鹿じゃない。



「舐めさせてくださいって言えば、僕が機嫌良くなって気抜くとでも思った?」

「…ごめんなさい」

陽菜が、泣き出しそうな顔で言った。

「どうしてごめんなさいなの?図星だった?」

「違っ、違うの…」

焦ったように陽菜が首を振った。

「僕はそんな単純じゃないよ?」

陽菜が何度も頷く。

「妥協と服従は違うよ」

「…ごめんなさい」

「どうして謝るの?」

陽菜は、また俯いてしまう。
僕は陽菜が「ごめんなさい」の一言で、済ませようとしている気がして、気に入らなかった。

「舐めれば許されるんじゃない、謝れば許されるんじゃない」

陽菜は俯いたまま、黙っている。

「真鍋に言った言葉だって正解じゃない」

陽菜が怪訝な顔で、僕を見た。

「彼氏がいる…それじゃ真鍋は僕の存在がわからないよ」

真鍋に陽菜は、僕がいないと生きていけないことを知らせないと、意味がないんだ。

舐めれば許すんじゃない。
許されたいから舐めるじゃ、陽菜は僕のモノじゃない。
僕が欲しいから舐めたい。
そう思えなきゃ、陽菜は僕のモノじゃない。


その場しのぎで謝るなら、意味がない。
何が悪かったか、理解できていなきゃ、服従したとは言えない。

「陽菜、お尻出して?」

僕が言うと、陽菜は半べそをかきながら、僕の手を握った。

「やだっ!ごめんなさい!ちゃんと言う、ちゃんと言うから怒らないで!」

「怒ってないよ、御褒美に尻尾つけてあげるだけ」

「…やだ…やだぁ…」

陽菜が泣き出した。

「ほら…陽菜はわかってない…」

いや…本当は、わかってるのかな?
陽菜は……

「気持ち良くなるのが怖いの?」

そう…陽菜は、わかってる。


服従することは、気持ち良い。
支配されていくことは、気持ち良い。

僕の色に染められていくことは、気持ち良い。



だけど陽菜は、受け入れることが怖くて、僕は…





僕は……






何か違和感を、感じている。

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