《MUMEI》
人殺し
そのまま受話器を置いて沖縄に帰る支度をする。
どんな話しをしたかも覚えてないけど、俺が一人で帰る事になった。
沖縄に着くまでの道のりが…怖かった。現実感が無さ過ぎて体が宙に浮いていた。
着いてすぐに港に向かった。港ではかなり大騒動で沢山の人が動いてくれていた。
俺を見て駆け寄ってくる親戚の人達が『大丈夫、大丈夫だからね。』『心配するな』沢山気を使って少しでも俺を落ち着かせ、安心させようとしてくれていた。
婆ちゃんは港に来れなくて家で寝込んでいた。
自分の息子が行方不明だなんて信じられないだろう。
行方不明の詳細はこうだった。父ちゃんはその日は普通に漁に出たらしい。仲間とも無線でやり取りをして、いつももの漁場まで船を走らせていた。
先着いた仲間が無線で連絡した時には『もうすぐ着く』と言っていたらしい。それからしばらくして父ちゃんの船が見えたのでまた無線で連絡した時には無線に出ず、船はそのまま漁場を通過して行った。
仲間は無線で連絡を取れないのを不自然に思い、漁を中断して無線で発信しながら後を追うけど、連絡が取れなかった。
すぐに港の漁業組合に無線連絡を入れ、追う船と海に落ちていた場合を考えてその場所の海域を捜索する船とに別れて捜してくれた。
普通、船は操作しないで走らせると真っすぐ走らない。大きな円を描きぐるぐる回り続ける。
でも自動操舵って機械で真っすぐ自動で走らす事が出来るので、多分それを使っていたのだろう。
詳細を聞かされ、明日から捜索に加わって欲しいとみんなに言われた。
親戚から、港の人達から。
加わるつもりだった。
だけど加わる事は出来なかった。
父ちゃんを憎んでいたから。死ねばいいとまでは思わなかったが、自業自得だと思っていた。
家族を捨てた報い。
俺は次の日も捜索に加わらなかった。親戚からは『お前が行けば見つかるかもしれない』『父ちゃんを捜してくれ』頼まれて泣きつかれて、その度に俺の気持ちが逆に冷めていった。
婆ちゃんに頼まれていたら…行っていたかもしれない。婆ちゃんは俺の母ちゃんに優しかった。離婚する時も親戚が母ちゃんの悪口を言ったりする中でも、『ずっと父ちゃんが悪い』『ごめんね…』って母ちゃんに謝っていた。
その時の『ごめんね…』は俺は理解していなかったけど。
親戚が俺に頼んでいる時に、あまり付き合いのない親戚の叔母さんがいきなりこう言った。
『人殺し』
『お前が一緒ならこうはならなかった』
『お前が殺したようなもんだ』と。
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