《MUMEI》

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何で憂が榊原なんかと…。



不思議に思い首をかしげかけてからハッと思い出す。憂が修験者である榊原に興味を持ち始めたことを。

まさか同好会に勧誘しているんじゃないだろうな。

顔色を変えた俺に気づいたようで友達はこちらを見た。その顔はあからさまにニヤニヤしている。

「なになに?やっぱ気になんの?」

「何が?」

「神林さんが他のオトコと一緒にいるのが」

「何で?」

「またまたぁ!往生際が悪いですぞ、ダンナ!」

そこまで言って、友達はニヤニヤしたまま黙り込む。俺もバカではないので、彼が言わんとしていることはわかっていた。
つまり彼は、俺と憂が付き合っていると誤解しているのだ。全くもっていい迷惑である。

「アイツと俺はそんな関係じゃねぇよ!」

「今さら隠してもムダムダ!この前、放送部に暴露されたちゃっただろ?」

夏休み前、放送部の松本に学食で憂とのツーショットをキャッチされたことだろう。

「あれは仕方なかったんだ!放送事故みたいなモンだ…つーか、そーやってお前ら面白がってんだろ!」

「照れんなよっ☆」

「無視すんじゃねぇ、ふざけんな!!」

ニヤけ顔の友達に対してつっけんどんに言い返しつつ、そんな誤解よりも現状はもっと恐ろしいことになっている気がして落ち着いていられなかった。
俺は再び横目で中庭の様子を窺う。

榊原と憂は穏やかな足取りで中庭を横切っていく。その雰囲気ものんびりした感じでしかも二人とも群を抜くルックスである。仲睦まじい美男美女、まさに絵になるカップルだ。嫌でも目を惹く。

「…しかしお似合いだねぇ」

友達も同じことを考えていたらしい。俺は鼻で笑う。

「類は友を呼ぶって言うからな、世の中上手く出来てるよ」

榊原のイカれ具合と、憂のマニアックな性質を揶揄したつもりだったのだが、友達はそれとは違う方向で受け取ったらしく、

「榊原がああやって神林さんの隣に並んでも違和感ないもんなぁ」

お前と違って、とキッチリ落としどころを決めてきた。

俺は無言で友達の頭を殴り、肩を怒らせて教室へ向かう。からかわれ過ぎていい加減頭にきた。何すんだよー!、と友達の声が背後から追いかけてきたが無視を決め込んだ。今日はもう口をきいてやらん!などと、小学生のようなことを考えつつ、歩きながら残っていた缶コーヒーをグイッと豪快にあおる。口いっぱいに苦い味が広がって、俺はつい眉をしかめた。



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