《MUMEI》

「B.Sを、寄越せ。それさえあれば、白化を食い止める事が出来る」
徐々に間合いを詰めてくる
羽野の身体を抱え上げながらソレを避け
詰められた距離をまた開けた
「……何故、躊躇する?お前とて同じだろうに」
嫌な笑みを浮かべながら近藤を見下してくる
徐に近藤の腕を掴み上げたかと思えば、袖をたくし上げた
曝け出された腕
だがその腕に肉はなく、白く無機質な骨が顕になった
「お互いに、憐れなモノだな」
「……ほっとけ」
掴まれてしまった腕を振り払い、素早く踵を返す
その勢いを借り、脚を蹴って回しながら相手との距離を取った
「飽く迄もそれを渡すつもりはない、と。まぁそうだろうとは思っていたがな」
全ては想定の範囲内だと相手の笑う声
徐に近藤の背後へと目配せをした、次の瞬間
一斉に黒服の集団が其処へと入ってきた
「何の真似だ?」
周りを取り囲まれ退路を塞がれる
相手は何を答える事もなく、僅かにまた目配せ
ソレがまた別の合図だと気付き、だが遅かった
鳴り響く発砲音、すぐに感じる痛み
耐えきれず片膝を崩してしまう近藤
その発砲音に、羽野が漸く眼を覚ます
「……!?」
何が起こっているのか、瞬間理解出来なかった様子だったが
自身を抱き込んだまま蹲る近藤
血に塗れたその様子に羽野は眼を見張った
「ア、アンタ、何で……」
「逃、げろ……。秋夜」
一体何が起こっているのか
目の前で見ている筈なのだが、それを現実として受け入れられない
視界を覆う赤、朱、アカ
動揺に、動向が開いて行く
兎に角、逃げなければと思うのに
身体が全ての機能を忘れてしまったかの様に動かなくなってしまっていた
「……全ては、私の意のままだ」
羽野の目の前に迫り寄る影
何故か慈しむかの様に頬を撫ぜられ、だが感じるのは嫌悪感のみ
せめてもの抵抗にその手を振り払ってやろうと試みた
だがは荷が行動を起こすより先に、その口元に布が宛がわれる
香ってくるきつい薬品の匂い
吸ってはいけないと懸命に息を止めるがそれもすぐ限界がきて
息苦しさに深い呼吸をしてしまい、即座に羽野の膝が崩れ落ちる
「……秋夜!!」
近藤の掠れ掠れの声。返ってくる声はなく
その身体は相手へと抱え上げられ、そしてその胸元に刃物が宛がわれる
相手が何をするつもりなのか、すぐに気付き
生死の声を、近藤が喚き叫ぶ
「もう、手遅れだ」
言い終わると同時にその手の刃物が羽野の腹部を斬り裂いて行く
上がる悲鳴と、飛び散る血液
雨の様に飛び散り、そして降ってくる朱の水を全身に浴びながら
段々と狂った様に笑う声を上げ始めた
「B.S何処だ?何処にある?」
羽野の傷口へと指を差しこみ、探る様に傷を抉り始める
否応なしに感じてしまう痛みに呻く様な声を上げ羽野
だがその行為が止められる事はなく暫く続き
漸くそれが止まったkと思えば、内臓の一部が引きずり出されていた
「あ゛っ……」
短く喚く様な声
身体の外へと引きずり出され、小刻みに痙攣を起こしているソレの中に
相手はどうやら目的のモノを見つけたらしく
そのモノを取ろうと容赦なくそこを引き千切っていた
「――!!」
声にならない悲鳴
代わりに其処から出てくるのは、顎を伝ってくる赤い水
大量のソレがあふれ出てくるのを、近藤は何ができる訳でもなく
唯、眺めているしか出来ない
せめて、動く事が出来れば、その身体を抱きしめてやれるのに
唯それすらも出来ない自身が歯痒くてならない
「……やっと、やっとだ。手に入れた、これさえあれば……!」
相手は全身羽野の返り血で赤く染まりながら、狂った様に笑い始める
否、(様に)ではない。既に狂ってしまっているのだ
「……近藤。お前は、こんな私を狂っていると思うか?」
「……自覚なしかよ」
「ああ。もしもこれが(狂気)だというのならば酷く心地がいいモノだ」
黒く艶光りするB・Sに厭らしく舌を這わせてみせながら
その狂気が段々と顕になっていく
「お前はそのまま惨めに這いつくばったまま朽ち果てればいい」
嫌な言葉を投げ付け、相手は踵を返す
去っていくその背を、だがそうする事も出来ずそのまま見送る羽目に
後に残された近藤

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