《MUMEI》

「ねぇ…陽菜が僕にお漏らししたことがあるって教えてくれたの覚えてる?」

そんなこと…言った覚えが無い…。
眞季に私の家庭の事情なんて、話したことないんだから…。

「僕が教室でお漏らしして、みんなが僕を汚いって笑って…」

思い出した。
小学生の頃、眞季は教室でおしっこを漏らした。


顔を真っ赤にして俯く眞季と、眞季を取り囲むみんなの心無い声…。
私は眞季を守りたくて…

「陽菜だけは違った…陽菜だけは僕に優しくしてくれた…綺麗な手で僕のオシッコを拭いてくれた」

眞季が、幸せそうな笑みを浮かべた。
けどその笑顔も、なんだか怖くて私は、眞季の目をまともに見れなかった。

「陽菜だけは僕の気持ちをわかってくれた…それで保健室で僕だけに教えてくれたんだ…あたしもしたことあるよって」

そう言えば…

「僕は感動したんだ…陽菜がオシッコするなんて想像もできなかったのに、お漏らしもしたなんてわかったから」

私は眞季を、助けたかった。
少しでも気が楽になれば、そう思った。


それで私は、眞季に言ったんだ…。

「だけど僕は陽菜に気持ちを伝える勇気がなくて、それで…陽菜の物を集めた…陽菜を感じられたらなんでも良かった…」

ずっと私を恨んでると思ってた。


盗んだ犯人が眞季じゃなくても、私はそう思ってたと思う。
だけど眞季は、恨んでたんじゃなくて──……

「でもパンツを盗んだあの日、陽菜は泣いた…僕はずっと陽菜が泣くとこを想像してた…お漏らしして怒られて泣いてる陽菜を」

眞季の言っている意味が、理解できない。

「怒られて泣く陽菜は、どんなだろうって思ってたら陽菜は泣いたんだ…僕がパンツを盗んだから」

眞季は笑っている。

「陽菜は僕に泣かされたんだよ…あの佐伯くんにだって強気な陽菜が僕に…」

なにを…言ってるの…?

「陽菜は僕の前でだけ泣いてくれる…笑って強がる陽菜はみんなのものだけど泣いてる陽菜は僕だけのものだってわかった」

眞季が理解できない。
眞季は…こんなに、おかしなことを言う人じゃなかった…。



───…違う。



眞季は今まで、黙って私の傍にいただけで、自分の意見なんて言わなかったんだ。


だから私は、眞季の思考が理解できないんだ。

「僕は陽菜の特別だってわかった…僕は陽菜の泣いてる顔がいちばん好きなんだよ…泣いてるときの陽菜がいちばん綺麗な顔してる……僕を興奮させてくれる…」

眞季の腕が、私の体を包んだ。

「僕を避け出したときも、どうやって泣かせるか考えてた…今だって…だからね…いっぱい泣いてね」

“一目惚れ”
私も眞季に、一目惚れしていたのかも知れない。

あの頃は恋心なんて、そんな難しいことわからなくて、ただ眞季を守りたくて、一緒にいたくて…私は眞季と、離れないようにしてた。

眞季も同じ気持ちだと知っていたら…、私の気持ちが『恋』だ、とわかっていたら…。
眞季のあんな姿を見ていなかったら私は今頃、先輩じゃなくて眞季の着信音を、変えていたかも知れない…。


そんなふうに一瞬でも考えた自分が、あまりにも滑稽だった。


眞季は恨んでたんじゃない。
でも私を、想うが故の行動でもない。


ただ私を、苦しませたかっただけ…。


眞季の歪んだ性癖が、起こしただけの行動…。

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