《MUMEI》

アラタは最近、拒むことを覚えた。体を毎晩のように求められることの繰り返しに魔がさしたのか。部屋から出てみようと思った。

窓から脱出する。

一人での夜歩きがばれれば半日拘束されてもおかしくない。それが彼等の中の普通だからである。


人の怒りは醜くて愉しい。


あんなに弱い人間は久し振りに見た。


本当に偶然だったのだ。

樹を私刑した草むらを通る。



「死体が歩いてる」
電柱のライトの真下に向かってくる影。


「そっちこそ。生き物を殺めたそうな顔してたら補導されるぞ」
高柳 樹は電柱に寄り掛かっていた。



「樹がお前のことばかり考えてたよ。迷惑なんだよね。」
自分の名前をまるで他人のように話す。




「当たり前だよ。あれは俺のものだから」
アラタは彼の刺すような敵意に心地よささえ感じた。

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