《MUMEI》
マイ・フーリッシュハート
『おい、そっちじゃない。こっちだ。』
言われたような気がして我にかえった。

今夜のライブ、私はピアノとヴォーカル、そしてベースはアーク。

こじんまりとした喫茶店のようなジャズクラブ。いや、今時の『カフェ』というところ。

『フィーちゃん、うちのはアップライトなんだけど、いいかな…? 』
オファーがきた時に、オーナーが申し訳なさそうに言っていた。
『あたし、そういうの全然っ気にしませんからぁ』
と明るく言ったものの、ピアノがアップライトと言う事はどういう事かというと、つまりはお客様に背を向けてしまうということ。

ピアニストがいて、歌に徹するのならまだいいけど、私は弾き語りをやろうとしている。歌っている表情を見てもらえない、お客様の顔も見ることができない。

でも、そういう環境は、変える事はできないんだから、しょうがないじゃん !

後ろ姿が綺麗にに見えるドレス。アップにしたヘアスタイルの後ろにリボンをつけて。

一、二曲はベースだけの伴奏で立って歌い、
もうひとつは、曲の途中まで、そうやって歌い、サビにいくときにピアノの前に座り弾きながら歌う。
その時、気を付けるのはサビ前からサビに移るわずかな時間に(小節でいうと1小節ぐらい、もしかしたら2、3拍ぐらいしかない)マイクをピアノの前のマイクスタンドに差し、と同時に鍵盤の次に弾くべきポジションを確認しつつ、
ジャーン♪
とやる。
決まるとかっこいい。

慎重に、気持ちを集中して!
楽しそうにやりつつも、冷静さ保ち、時として、勇気と潔さも必要だ。
絶壁から飛び込むような気持ちに似てる?
さあ、飛び込んだことないから、わからないけど。

上手くいった!と思う。
その曲まではよかった。

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