《MUMEI》
諦め
私はずっと、眞季の気持ちを知らなかった。
眞季の歪んだ部分なんか、気付かなかった。


昔の気持ちが、本当に『恋』と呼べるのかも、わからない…。

先輩と眞季に対する気持ちは、やっぱり違う…。



なんだか、自分も眞季も…もう、全てがわからない…。





頭を整理しよう、冷静になろう、そう思えば思う程、私の頭は混乱する。


気付くと、私の首にロープが掛けられた。

「…な…に…?」

「大人しくしてて?」

眞季が微笑んだ。

「や、やだっ!!」

抵抗したけど、眞季は器用に私の体を縛っていき、私の腕は後ろで縛られ、足も大きく開いたまま固定され、屈辱的な格好のまま、身動きできなくなってしまった。

「これでもう、逃げられないね?」

「お願い、お願いだから……許して」

こんな格好じゃ、もう受け入れるしかない。
どんなに抵抗したって、動くことができなかったら…。


一切の動きを禁じられたことで、恐怖が増し…私は、眞季に懇願した。

「じゃあ、真鍋にしてたみたいにキスしてよ」

眞季が少し、強い口調で言った。

「だって、あれは違う」

「なにが違うの?」

「あたしからしたんじゃ…ないもん……」

「一緒だよ?陽菜からしててもしてなくても…僕以外の男に気を許したのは一緒なんだよ?… 許して欲しいんでしょ?」

眞季と付き合ってわけじゃないのに、どうして眞季以外の男に気を許したと、責められなきゃいけないのか…。
まだ『浮気』なんて考えでいるのか…。


眞季に問い質したいことは、いくつもあったけど、この状況から逃げ出したい気持ちの方が強かった私は、頷いた。

「じゃあ、してよ」

頷いたのか、俯いたのか判断できないくらいのとこで、眞季が私の体を抱き寄せた。
急な出来事に驚いたけど、逃げ場を失った私は、眞季の要求を受け入れるしかなく、深呼吸をして自分を落ち着かせた。


大丈夫。
キスするだけ。
大したことない。


自分に言い聞かせ、私は目を瞑った。

それは触れたというより、当たったというくらいだったけど、私は眞季の要求通りの行動をした。
だからもう、これで……

そう思ったのに、眞季の強い視線が、私をとらえた。

「そんなんじゃ僕は満足できないよ?…わかってるでしょ?」

わからない…。
わからないよ…。
ちゃんと要求を受け入れた。
抵抗だってしなかった…なのに、どうして……。


そう思っていると、眞季の手が私の顔を、押さえた。
嫌でも眞季と、目が合う。

「子供じゃないんだからさ…もう僕たちは昔と違うんだよ? 陽菜が言った言葉だよね?」

眞季が子供を叱るような口調で、言った。

「僕は陽菜の傍にいるだけで…ちょっと触ってもらうだけで満足できなくなった…陽菜だってそうで しょ?本当は僕に触れて欲しいんでしょ?」

「違っ……」

「じゃなかったらあんなに濡れないよ…陽菜の中には、まだ理性が残ってるんだよ…」

「理性とかじゃな……」

「そんなの捨てちゃいなよ…僕には陽菜が、陽菜には僕がいる…それだけは昔から変わらないんだから…それだけで充分なんだから」

「そんなわけっ……」

「早く…ちゃんとキスして?僕が満足できるように…許して欲しいならさ」

私の意見は全て、眞季の言葉に消されてしまった。
眞季の言葉を、否定したいのに『許して欲しいなら』という言葉に負け、私は目を伏せた。

「ちゃんと舌出して、僕の唇舐めて?」

眞季の言葉に、怒りが込み上げる。
唇を舐めるなんて『キス』じゃない。

でも自分が逃げられないことくらい、わかってる。
私は舌があまり触れないように、少しだけ舌を出して眞季の唇に触れた。

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