《MUMEI》

「そうか?ならいいけど」
安堵に緩んだ表情
その僅かに笑んだ様な顔が、安堂は好きだった
そんな些細な(好き)がいつの間に(恋)に変わったのか
始めてのその感情に動揺する
「そ、そう言えば、さっき、妹さんが来たです」
その事がばれてしまわないように、と
何気ない会話を始め自身を落ち着かせようと試みる
「あいつが?何しに?」
「恋絵馬と恋守りを買いに。自分で買った方が御利益あるかもしれないからって」
「……成程な」
「妹さんの恋、叶うといいですね」
「そうすりゃ少しは大人しくなるかもな」
普段の妹の様子を思い出しているのか、三原は苦い笑みを浮かべて見せた
安堂も漸くそれに釣られ笑みを浮かべてみせれば
三原が徐に手を差し出してきた
「?」
「まぁ、せっかく来たし。それ買って帰る」
「え?」
「いくら?」
「……えっと。二つで1200円です」
値段を聞き、その金額を支払う三原
紙袋へと入れ、それを手渡してやりながら安堂は自身の胸の内がざわつくのを感じていた
三原には、誰か想う人がいるのか
ソレを考え始めてしまえばそのざわ月は段々と大きくなっていく
「……あ、あの。倖君」
つい聞いてしまいそうになった途中
三原は今し方買ったばかりの二つをどうしたのか安堂へと手渡していた
「?」
その意図が分からず小首を傾げて見せる安堂
まじまじと見つめられ、三原は若干バツが悪そうな様子だ
「……人の恋路ばっかり願ってないで、たまには自分のでも祈ってみたらどうだ?」
「私、の?」
「そういう相手、居ないのか?」
三原は何気なく聞いたつもりだったのだ
だが安堂は顔を真っ赤に動揺する事を始めてしまう
もしかしたら自身の想いに気付かれてしまったのでは、と
気が気ではなく、うろたえるばかりで
「……大丈夫か?お前」
「こ、これ、私の為に……?」
今までは此処に訪れる人が皆酢合わせになってくれればと思っていた
自分の事など、願おうとも思わなかった
だが、自身の気持ちを自覚し、その相手が自分の為にと恋守りを買って渡してくれた
ソレが、どうしようもなく嬉しく思えた
「……!?な、なんで泣くんだよ!?」
「え?」
三原の慌てたような声に、頬へと手を触れさせてみれば
指先が、雫に触れた
「あ、あれ……?どして……」
「な、何か、俺したか?」
困った風に眉をひそめる三原
安堂は慌てて首を横へと振ってみせる
「……違うんです。私、何か、嬉しくて……」
例え、三原に特安堂に対する別な感情がなかったとしても
自身を気に掛けてくれた、その気持ちが嬉しかった
「……倖君。お茶、飲んでいきませんか?」
「茶?そりゃ、有り難いけど……」
「御近所さんから、美味しいほうじ茶貰ったんです。すぐいれきますから!」
待ってて下さい、と安堂は身を翻す
三原に会えば会う程
意識してしまう、(好き)という感情
唯、ヒトの恋愛成就を願った居た時とは明らかに違う胸の高鳴りに
安堂は自分自身の事のなのだが恥ずかしさを覚え、その場に蹲ってしまった
「稔や。どうかしたのかい?」
「お、お爺ちゃん!!」
「なんじゃ?顔が赤いぞ。大丈夫か?」
「え?う、うん。大丈夫」
体蝶が悪いなどではないうから心配はいらない、との旨を伝えてやれば
祖父は安堂が手に持っている恋守りと恋絵馬に気が付いた
どうしたのかを問われ、だがどう説明すればいいのかが分からず、口籠ってしまう
「……巷で噂の恋神様も、自身の恋ともなれば疎いのう」
「……」
ソレについては、返す言葉が見つからなかった
疎い訳では決してない
三原に恋をしているのだという自覚はある
唯、それを口に出して伝える事が出来ないだけで
「……私なんて、きっと駄目だもん」
自分など、決して相手にしては貰えない、と安堂は更に膝を抱えてしまう
そうしていてもどうしようもない事は解っている
唯、もどかしい自身に腹ばかりが立った
「あ!恋神様!」
暫く後、漸く少し落着きを取り戻し
蹲っていた膝を伸ばし、身を翻したのと同じ時分
その声が聞こえてきた
振り返ってみれば、そこに居たのは女子高生の集団で
皆が皆、その手には恋守りと恋絵馬を持っている

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