《MUMEI》 今日は二郎が都合よく、撮影で遅くなる。 早めに仕事を済ませて、律人と一心不乱に家に向かった。 「バカオ……開けたの?」 「律斗こそ、どうして知っていたんだよ。」 その問いは握りしめている携帯で把握する。 「……読んだか?」 律斗は黙って頷いた。 「ジローには言わないで。」 「言うかよ。」 正しくは言えるかよ、篠さんは二郎にとって、恩人で、仕事のノウハウを叩き込んでくれた育ての親みたいなものなのだから。 「父さんは、母さんや俺のこと好きだったのかな……」 「なんてこと言うんだ。日記にはずっと書いていただろ……。」 まだ全て読めてないけれど、奥さんを失った悲しみを、二郎と仕事に取り組むことで、バランスを取っていた。 律斗と奥さんが篠さんのかけがえのないもので、二郎に惹かれた自分を憎み、懺悔していた。 「日記を読んでいたら、本当の父さんがわからなくなって……最後まで読めなくて……」 涙が律斗の頬を伝う。 「俺は、最後から読んでたけど、篠さんはちゃんとお前と奥さんを愛してたよ。怖かったら、一緒に読んでやる。 形はいびつだけど、一緒に住んでいる家族みたいなものだろ?」 握った律斗の手は、小さくて、これから俺が二郎と一緒に守るべきものだと再認識した。 前へ |次へ |
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