《MUMEI》
屋上からの逃走
 男は強引にドアを開けようとするが、あらかじめ仕掛けておいた障害物のお陰でなかなか開かない。
ガン!と男は一度ドアを蹴ると、再び階下に向けて怒鳴った。
仲間を呼んでいるようだ。

「やばいぞ。サトシ、早く取れ!」
「わかってるよ」
焦りからか、サトシの手は震えており、上手くボタンを押すことができない。
「いい。俺が押す。何番だ?」
ユウゴはサトシの足元にしゃがみ込んだ。
「で、でも、もし違ったら」
「いいから、早く言えよ!どっちにしてもやばいんだから」
「他の奴らも来たみたいだよ。ねえ、早く!」
男たちの様子を見ていたユキナが早口に言う。

 ドアは今にも開きそうに、グラグラ揺れていた。
「早く!」
ユウゴの怒鳴り声に押されたように、サトシは応えた。
「六二九五」
その声に合わせて、すばやくユウゴはボタンを押していく。
 一瞬の間を置いて、カチっと足枷は外れた。
同時にガン!とドアが開かれた。
男たちが走り込んでくる。

「サトシ、立て!行くぞ」
喜ぶ間もなく、三人はフェンスに向かって走り出す。
「跳ぶぞ!」
ユウゴは返事も待たずにフェンスをよじ登り、隣のビルへと跳び移った。

「あいつらも来てるよ!」
「ああ?」
振り向くと、男たちは何か怒鳴りながらフェンスをよじ登っていた。
「サトシ!」
「なに?」
「それ、早く捨てなよ」
サトシの後ろを走るユキナが言った。

サトシは手に足枷を握ったまま走っていたのだ。

「おお、ラッキー。ちょっと貸せ」
ユウゴはそう言うと、サトシの手から足枷を奪い、立ち止まった。
「なにすんの?」
「いいから、先行け!」
 ユキナとサトシを先に行かせ、ユウゴは今、まさにこちらへ跳ぼうとしている男たちに狙いを定めた。
「……っーの!!」
勢いをつけて、手に持った足枷を投げ付ける。

 放られた黒い輪は、真っすぐに男たちへと飛んでいき、ガッとぶつかった。
直後、それは爆発した。

煙りの中から男たちの悲鳴が聞こえる。

「ぼーっとすんな!逃げるぞ」
驚き、立ち止まっている二人に怒鳴ると、ユウゴは再び走り出した。

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