《MUMEI》 火葬場深夜、指定された場所に樹は鍵を差し込む。 下駄箱に靴に物を潜ませるという、古典的な手法で手に入れた鍵だ。 メールで一方的に場所と時間を指定されて、言われるがままやってきたのである。 マンションで鍵は二種類、カードキーと、通常の部屋の鍵だ。 家から見える頭の突き抜けたマンションに、まさか自分が入ることがあろうとは、彼は夢にも思わなかった。 母親は夜勤で、静流は高熱を出したので、伯母の家に預けている。 「入れよ。」 男の気配は消えていた。 黒のパーカーのフードを目深に被り、廊下に立っていた。 恐らく同じ階の部屋のどれかから現れている。 ぎこちない歩き方や、声色から樹への敵意を感じ取れた。 斎藤の仲間の一人だと、確信している。 鍵穴を入れる音だけが鳴り響いた。 「ようこそ火葬場へ。」 中の誰かがおどける。 前へ |
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