《MUMEI》
オリオンベエタは三回死んだ
卑しい女だった。
肩で鼻を啜る仕草で、一目で貧しい育ちが想像出来た。
そして、食べ方の不快さといったら無かった。
躾と言えば簡単に聞こえたが、まず言葉が分からない。
椅子に縛り付けて、手でナイフとフォークを使えるように、何度も何度も理解するまで教えた。
粗相の無いように、徹底的な淑女へと育て上げた。
彼女の過去を殺した。


式は盛大だった。
シルクの生地に宝石は手縫いで何百も敷き詰められ、大きな真珠の頭飾りとヴェールは金色の髪をより引き立てていた。
コーラルオレンジの紅に桜色の頬をして、シャンデリアにブルーアイを何度も瞬かせていた。
王族の他にも、政治家や記者も、招待しなければならないことは、億劫でしなかい。
世界一美しい血を持った見世物として、これからは国民の理想像を演じ、晒され続けるのだ。
これが、二回目の殺人だ。
咳き込んだ白いハンケチに、血が染み出す。
倒れたのは、一月前だ。
女は泣き腫らした顔をこちらに向けている。一等星の輝きと謳われた一族には思えない、とても目をあてられない顔だ。
「煩わしいものが死ぬんだ、清々するだろう。」
声は腫瘍が邪魔をし潰れていて、自分でも聞き取りにくい。
「…言わないで。大嫌いな貴方の居ない世界じゃ、私が死んでしまいそう。」

私の死後、彼女は死んだのだろう。


或る星の女王、オリオンベエタは血を啜りながら永遠の若さを保っていた。
魂を食べて美しく輝く一等星、その星からオリオンベエタの子孫が宇宙のどこかにまだ生きている。

祖父はオリオンベエタに魅入られていた。
オリオンベエタを愛するあまりに父に祖父は殺された。
世界を滑る皇国の主にあるまじき愚行。
オリオンベエタとやらを呪って殺したかった。
私は復讐したのだろうか?

愛したのだろうか?

くだらない考察をしながら、贅沢にもくちづけする最もの美しい妻の温もりで眠りについた。

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