《MUMEI》

 失ってしまった意識をまた取り戻したのはソレから数時間たってからの事だった
痛みに軋む身体を何とか起こせば
胃の中に逆流してしまったらしい血液が口から自然とあふれ出てくる
「……貫通してくれてんのがせめてもの救いだな」
ソレを全て吐き捨てながら、口元を乱雑に拭うと近藤は辺りを見回した
羽野は一体どうなってしまっているのか
ソレをすぐにでも確認しておきたかった
「秋夜?」
その姿はすぐに見つける事が出来た
近藤のすぐ横で、まるで人形の様に唯其処にあって
それでも呼ぶ声に、僅かな反応はあった
今ならまだ救えるかもしれない
このまま諦めてやる訳にはいかないと
近藤は都合よく其処に放置してあったシーツの様な布を引き千切り、傷へと巻き付けて行く
きつく巻き付けてやれば、白いソレがすぐ赤に染まる
「……秋夜。こっち来い」
自身の処置も程々に、近藤は羽野を呼び
無残にも切り裂かれてしまった腹部の傷口も処置してやった
その最中、羽野が近藤の手を徐に掴み上げてくる
白化で骨と化してしまっている左腕を相変わらずの無表情で眺めながら
唐突に舌を這わせてきた
まるで其処を労わるかの様に酷く優しく
その様に、近藤は居た堪れなさを胸の内へと感じる
「……人の欲ってのは、何も救わない、か」
時に人を傷つける事はあっても
何からも、ヒトを掬う事など出来ないのだ
ソレが例え、誰かを守りたいという願いだったとしても
「……俺は、どうすりゃいいんだよ」
誰からも、何からも得る事の出来ない答えを求め、唯もがくばかりで
だが全て無意味なのだと、すぐに肩を揺らす
兎に角動かなければぁにも変わらないと、何とか立ち上がった
身を翻す近藤を、羽野は唯虚ろな眼でそれを追う
「……何してんだ。来い」
想う様に動いてはくれない羽野に僅かばかり焦れてやりながら
引き摺るように歩き始める
暫くそのまま歩き続け、だが痛みに耐えきれずその場に片膝をついてしまう
「……っ!」
喉の奥に鉄の味を感じ、咳払いと同時に吐いて出す
想った以上のその量に、近藤は憎々しげに舌を打った
せめて一時だけでも身を潜ませることの出来る場所へと思うのに
身体が全く言う事を聞かない
「……秋夜。見ィつけた」
動けずに居た近藤の背後、にじり寄ってくる足音が聞こえ
耳に纏わりつく様な耳障りなソレに
近藤が羽野の身体を庇うようにその手を引いた
「……無駄な足掻き、すんなよ。死にかけじゃん」
「うるせぇよ」
「今なら、楽に奪えるな」
姿を見せたのは和人
ゆるり近寄ってくるその足取りは随分と覚束ず
見れば、身体の至る所が白化の影響で骨と化していた
「お前、新都市に行ったのか・」
余りに進行してしまっている白化に、つい問うてみれば
和人の表情が僅かに苦笑に浮かぶ
「……興味が、会ったんだよ。楽園って噂される新都市がさ。けど、全然違った」
ソコで見たモノを思い出したのか、苦笑を更に深めながら近藤の方を見やった
「何が、楽園だよ。骨ばっかりでさ。びっくりした」
言いながらポケットから徐に取って出したのは以前にも持っていたアンプル
薄紅色をしたそれに、近藤は見覚えがあったのか、目を僅かに見開く
「変なオッさんに貰ったんだよ、これ。まさか、こんな事になるなんて思わなかったけどな」
骨と化してしまった自身を狂った様に笑いながら見やる和人
和人にアンプルを渡したのは恐らくあの人物
和人を白化する事で早々にB・Sを見つけに掛るだろうと考えたのだろう
近藤はその卑劣なやり方にまた舌を打っていた
「……B・Sさえあれば、俺助かるんだよ。だからさ、秋夜ァ……」
「……無ぇよ」
和人の手が羽野へと触れる寸前
その手首を掴み上げtながら近藤は短かく吐き捨てた
「……?」
その言葉の意が理解出来ないのか、和地は怪訝な顔
一体どういう事なのか、表情が問うてくる
「……盗られた」
「はぁ?」
「テメェも会ったって言うあの男に、だ。こいつの内臓無理やり引っ張りだして奪っていきやがった」
「って事は何?秋夜の身体の中には、もうB・Sは無いって事か?」
「そういう事だ。残念だったな」
自嘲気味に笑ってやれば、和人の表情が明らかに怒のソレにかわり
近藤の胸座を掴み上げる

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