《MUMEI》

 「すごーい」
一人家を飛び出し、台風の欠片を追うてきた桜井
途中、欠片達が一際集まっている処に遭遇した
その数の多さに、捕まえに行くと飛び出してきたもののどうすればいいのか
解らず立ち尽くしてしまう
「……何、してるの?」
突然の背後からの声
そちらへと弾かれたかの様に剥いて直って見れば、そこに一人の少年
桜井へと向け、どうしてか満面の笑みを浮かべてみせる
「……?」
「何しに来たの?此処、危ないのに」
不思議気に小首を傾げてくる少年
どう答えて返そうか悩んでしまった桜井だったが、不意にある考えに思い至る
何故こんな処に少年の様な幼い子供がいるのか
向けられた解いをそのまま返してやりたくなる
「僕、台風だよ」
「え?」
「遊びに来たんだ」
満面の笑みを桜井へと向けながら
自身を台風だと称する少年はその言葉通り、自らのん周りに風を纏う
「ぜーんぶ、吹き飛ばしてあげるよ。そしたらきっと楽しいから!!」
とんでもないことを口走ったかと思えば
少年の周りの風の渦が更にその大きさを増していく
「もうこんなになっちゃった。凄い凄い!」
「ちょっ……、喜んでる場合!?」
「うん!だって、楽しいよ!ほら、みて!」
言葉通り少年が渦を指差せば、その大きさが更に増す
このまま巨大化を続けてしまえば取り返しのつかない事になる、と
桜井はソレを止めようと試みる
「ね、こんな事止めよ?」
「何で?」
小首を傾げられ、桜井はどう答えて返せばいいのかを悩む
この少年は恐らく(壊れる)という事が解らないのだ
全てを壊されてしまえば、後にはないも残らないと言う事を
「ね、もしかしてお姉ちゃん、(ひまわり)なの?」
「え?」
「だって、だって!ハルや雨月、早雲や雪舟と一緒に居るよね」
「そ、そうだけど……」
「やっぱり」
無邪気な笑みを向けられ、桜井がそれ以上何も言えないでいると
少年は更に笑みを浮かべて見せながら
「だったら、僕のことちゃんと見てて!(ひまわり)にはその義務があるんだからさ!」
桜井の両の手を唐突に引く
子供とは思えない程の力で引かれ
このままでは何処かへと連れて行かれるのでは、と
手を振り払おうとした、次の瞬間
「……ひまわりを、何所へ連れて行くつもりだ?小僧」
背後から、それを制する声が聞こえた
そちらへと向いて直れば
雪舟を筆頭に、ハル、雨月、早雲の姿が
「やっぱり来た。お邪魔虫」
「ぬかせ。このクソガキが」
あからさまに嫌そうな顔をしてみせる少年へ
同じ様な顔をして見せながら、雪舟は吐いて捨てながら
「……毎回、来る度に騒ぎを起こすな」
面倒だ、と更に続ける雪舟
だが少年は我関せずといった様子で
雪舟へと舌を出して向けていた
「僕、遊ぶよ!だって、その為に来たんだもん」
制する雪舟の声を完璧に無視し、相手は身を翻す
風が小さく渦巻いたかと思えば、その風に隠されるように姿が消えていた
「……せ、雪舟?」
眉間に皺を寄せたまま前を見据えるばかりの雪舟へ
桜井は恐々と声をかけてみれば
返事を返されるより先に桜井は手首を掴まれ、その勢いで横抱きにされる
「な、何!?」
「喋るな。舌を噛むぞ」
軽く睨まれ、反論してやろうと口を開いたその直後
雪舟が強く土を蹴り上げた
「ちょっ……!?」
高すぎるほどに飛び上がられ、眼下に町を一望出来てしまった
高い処はさして苦手ではない桜井ではあったが、やはり限度というモノはあって
無意識に雪舟の肩口へと顔を伏せてしまう
「……ひまわり、見てみろ」
高さに恐がる桜井へ
構う事もなく、雪舟は前方を見やる様耳元でわざわざ呟く
再三見てみる様言われ、桜井は仕方なく顔を上げて見てみる事に
「……すごーい」
「……緊張感が欠片もないな。お前は」
「だ、だって、こんな天気初めて見るんだもん」
仕方がない、と見上げた空は
晴天と雨と曇りと雪
その全てが同時に其処に存在していた
「これは、見事ですねぇ」
不意に背後から声が聞こえ、振り返って見れば
ハル・早雲を引き連れた雨月が其処に立っていた
空を見上げながら、感心した様な声をつい漏らす
「……この状況って、感心してていいわけ?」
誰しもが物珍しげに見上げ

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