《MUMEI》

「有難う!これのお陰で好きなヒトと両想いになれたの!」
「私も!私も彼氏が出来たんだ!」
「恋神様が祈願してくれたおかげだよ!有難う!」
それぞれがそれぞれ、実った恋を安堂へ感謝し始める
今までは、皆のこの嬉しそうな顔を見られればそれだけで嬉しかった
ソレは今でも変わってはいない
だが今は、自分の恋もこんな風に幸せになれれば、などと
浅ましい考えを抱いてしまう自身に嫌悪感を覚えてしまう
「……私は、自分の恋をしても、いいのかな」
独り言のつもりで呟いたそれに、女子高生たちが一斉に安堂の方を見やる
無言で集まる視線に、言ってしまったことを自覚し顔を赤く染め始めた
「あ、あの、私……何でもないです!ごめんなさい!」
恥ずかしさも頂点に達し、謝りながら身を翻してしまえば
「恋神様も一緒に、恋しようよ!」
応援するから、と女子高生たちの揃った声が、安堂のん背を押してくれた
想わぬ激励に振り返ってみれば
女子高生たちは手を笑って振りながら
頑張れ、との言葉をおまけにその場を後にした
「……」
その背を半ば呆然と見送り
そして茶の支度の途中だった事を思い出した安堂は慌てて社務所へ
恋守りと恋絵馬を袖の袂へと入れると茶を持ち
待たせてしまった三原の元へと小走りに急ぐ
「倖君、ごめんなさい!お参りに来た人がいて、ソレで……!」
転ばない様気を付けながら急いで戻って見れば
待ちくたびれてしまったのか、柱に身を凭れさせ寝入ってしまっている三原の姿があった
銜えてその膝の上には、何処から来たのか猫が丸く身を寄せ寝息を立てていた
「……私も猫になれればいいのに」
そうすれば、何を考える事もなく傍にいあられるのに、と
三原の寝顔を近くに覗き込みながらそんな事を思った
次の瞬間
「恋神様。今日和」
また参拝客が来たようで
慌ててそちらへと向き直って見れば、そこに居たのは三原の妹
安堂が慌てた様子で顔を上げてみれば
其処に居たのは三原の妹
見られてはいなかったかと内心慌てながらそちらを見やる
「あれ?お兄ちゃん?」
すっかり寝入ってしまっている三原を見、妹は不思議気な顔
慌てるばかりの安堂の様子に、その口元がフッと緩んだ
「珍し。お兄ちゃんってば熟睡してる」
「はい……」
「ごめんね。こんなデカイの邪魔だよね」
すぐに怒貸すから、との妹へ
安堂は首を横へと振って見せた
「そ、そんな事、ないです」
「そう?なら、いいんだけど」
何しにきてるんだか、と呆れたような眼を三原へと向けながら
だが、その表情を伺えば何やら嬉しげで
何があったのか、安堂が問うより先に
妹の方から話し始めた
「……今日ね、好きな人に告白してみた」
「そう、なんでずか」
その結果がどうなったのか、尋ねるより先に
妹が、恋絵馬と恋守りを出してきた
「本当、ありがとうね」
「い、いえ。私は、別に……」
本当に何もしていない、と首を横へと振って見せれば
妹は微笑に表情を緩ませる
「次は、恋神様の番だね」
未だ寝入ったままの身はへと向いて直り、そして安堂へと笑みを浮かべて見せる
瞬間、何の事か分からなかったらしい安堂へ
妹は肩を僅かに揺らしながら、熟睡中の三原を指差した
その意を理解した安堂
顔を真っ赤に動揺する事を始めてしまう
「わ、私なんて……!」
「大丈夫だよ。お兄ちゃんにとって、恋神様は特別な存在になってるんだから」
本人は気付いてないみたいだけど、と妹は笑う
特別
もし、安堂が三原にとって本当にそうなら
ソレは、非常に喜ばしい事だった
「お兄ちゃんって、超ド級の鈍感だから。押せ押せで行かなきゃ、だよ」
「で、でも……」
「女は度胸!行ってよし!!」
言葉も終わりに妹は安堂の身体を三原の方へと押しやる
その弾みで、油断していた安堂は身体を支え切れず前のめりに
転んでしまう、目を閉じてしまえば
次にくるだろう痛みに、だがいつまで経っても安堂は苛まれる事はなかった
それどころか暖かな何かにその身を包みこまれ、それが何なのか眼を開けてみれば

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