《MUMEI》
はしがき
私は、犬である。
自分のことを吾が輩とは呼ばない。かの有名な猫に、実に失礼だからである。
私は幼い頃、保健所なるものに住んでいた。あと少しで引き取り手が見つからなかったら、私は今頃天国にいたであろう。引き取ってくれた人間Aに感謝である。
私は、俗にいうイケメンではない。どちらかというと、不細工の部類に入るであろう。
自己紹介はさておき、男に別れを告げられた人間Aは独りぼっちが寂しく、私を引き取った。
引き取って第一声が「きみ、不細工ね」である。私の硝子の心が、脆くもくしゃっと折れる音がしたような気がする。
そうして私が一歳の頃、人間Aの家に連れてかれたのである。
それからの暮らしは、野良の時代よりも遥かに素晴らしいものであった。雨風から身を守れると知ったときの私の嬉しさは、とてつもなかった。
人間Aは私に名前をつけた。気に入らなかったが、呼ばれたときは振り向いてやった。

そして、人間Aは私に約束したのである。
私には無関係な約束を。

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