《MUMEI》

『失敬な!!』と心の中で、私は叫んだ。外見で判断するなと親に習わなかったのだろうか。全く躾がなっていない。まだ幼かった私でさえも、マナーなどは理解しているのに。代わりに私は「わん!」と吠えた。
「あら、元気のいい子ね。きみ、うちに来ない?」
行けるなら行きたいものだ。
「あのォ、この子引き取ってもいいですか?」
「引き取って下さるんですか。それは良かった、良かった。おう、幸せになれよ、坊主」
私は坊主ではないが、今よりは良い暮らしをしてくるぞ。おじさんも、今までありがとう。私は保健所の人たちに感謝の意を表した。言葉は通じなくとも、心は通い会えるのだ。

「はい、今日からここがあなたの家です!」
まあ、なんと広いことだろうか。彼女は一人暮らしだろうか。
「ぶん太、ご飯食べる?」
…ぶん太?私の名前か?え、何それ。ネーミングセンスが悪いとしか言いようがない。
仕方なく振り向いてやる。
「あ、分かったの?自分の名前。いい子ね、ぶん太」
分かるさ。ぶん太嫌だなァ。なんて古臭い名前だろう。こういう時、人間と話せないのは、とても胸が痛い。
私は腹が空いていたので、舌をべろんと出し、人間Aのもとまで走っていった。
「そういう顔で走っていると、より不細工さが際立つわね」
なんと…っ!!
人間Aよ、もう不細工不細工言われるのは飽きたのである。
違う言葉は出てこないものか。

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