《MUMEI》
マンション
「さっきから何してんの?」
タイキはポテトを一本、口にくわえながらミユウに言った。
彼女は席に着くなり、端末を開き、何やら操作しながらしきりに外の様子を窺っていた。
「別に」
素っ気なくそう言いながらも、ミユウの視線は外へ向いている。
「ふーん」
そう応えながら、タイキはその視線を追ってみた。

先には高くそびえ立つビル。
金持ちばかりが暮らす高級マンションのようだ。

 彼女はそのマンションの入口を見つめたまま、キーボードを猛烈なスピードで打ち続けている。
よく間違えないなと感心しながらタイキはハンバーガーに噛り付く。
ミユウは操作に夢中で、頼んだメニューには一切口をつけていない。

 タイキがセットを全て平らげた頃、ミユウはニヤリと笑い「よし」と頷いた。
その視線の先にはやはり、あのマンション。
タイキはもう一度、マンションを見た。

特に変わった所はない。

住人だろう一人の中年の女が、中から出て来た。
しかし、その女はなぜかドアの向こうで立ち止まり、憤慨した様子で自動ドアを手でこじ開けているようだ。
故障でもしたのだろうか。
そう思ったタイキは、ハッとミユウを見た。
彼女はすでに端末を収め、冷めたポテトを口に運んでいる。

「なに?」
 タイキの視線に気付いたミユウはモグモグ口を動かしながら言った。
「いや、今、端末で何した?」
「何も?つか、関係ないでしょ」
「……まあ、そうだけど」
 タイキの考えでは、彼女はあのマンションの警備システムに侵入して、入口のロックを解除、おまけに電気系統も落としたのだ。

しかし、なんのために……。

まさか、今度は不法侵入で空き巣なんて真似をするのでは。

 タイキは疑いの眼差しでミユウを見つめたが、彼女はまったく気にしていないのか、気付いていないのか、一気にジュースを飲み干していた。

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