《MUMEI》 . 無機質な携帯のアラームの音で目が覚めた。 重い瞼を持ち上げ、ゆっくり視線を巡らせると、窓辺のカーテンの隙間から柔らかな朝日が部屋の中へ差し込んでいる。 起き抜けのぼんやりする思考のままで枕元の携帯を探り、鳴り続けるアラームを止めて隣を見た。 そこには、まだ瞼を閉じている男がいる。彼は小さな寝息を立てて、幸せそうに眠り込んでいた。 その寝顔を見つめていると何とも言えない愛しさに胸がいっぱいになり、わたしは彼の身体に自分の腕を巻き付けて抱き締めた。 ふわりと薫ってくる彼の香りが、わたしを幸せな気持ちにさせてくれる。 こんな風に抱き締めても、寝起きの悪い彼が目覚めないのはいつものことだ。 できればこのままこうしていたいが、残念なことにお互い今日は仕事である。 「…ねぇ、起きて。朝だよ…」 彼の耳元で囁きながら、わたしは巻き付けた腕で彼の身体を揺する。それを何度か繰り返して、ようやく彼は唸り声をあげた。 「…あれ?もう朝?」 掠れた声で尋ねてきたが、彼の目はまだ開いていない。 わたしは腕に力を込めて、ギュッと彼に抱きついた。 「もう起きなきゃ…遅刻しちゃうよ…」 そう呟いたわたしの身体を、今度は彼が抱き締める。その腕の逞しさにわたしの胸は高鳴った。 「…暖かい」 わたしの体温を確かめるように、彼は抱き締める腕に力を込める。 「ねぇ、起きようよ…遅刻しちゃうよ、ねぇってば…」 わたしは彼の身体を揺すり続ける。彼はやっと目を開けた。お互いの顔がすぐ傍にある。彼は何も言わず、ただじっとわたしの顔を見つめていた。とても優しい眼差しで。 彼の視線がくすぐったくて、恥ずかしくて、わたしは照れ隠しに彼の頬にキスをする。じんわりとわたしの唇に彼の体温が伝わってきた。 わたしの不意打ちに彼は笑って、代わりにわたしのおでこへキスを落とす。そのまま彼の腕にまた抱き締められると、本当に幸せな気持ちになった。 ずっとこうしていたい――― 彼の胸板に顔を埋めながら、うっとりと目を伏せたわたしの頭上から、 「今、何時…?」 突然降ってきた彼の声が、一気に現実へ引き戻す。 「―――ちょっと!7時過ぎてるっ!」 「マジかっ!」 二人とも絡み付けた腕を同時に離して、ベッドから飛び起きた。 . 前へ |次へ |
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