《MUMEI》

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競うようにベッドルームから出て、わたしは洗面所へ、彼はトイレへと駆け込む。

「アラームちゃんとかけたのっ!?」

「かけたよ、ちゃんと!」

「何でさっさと起こさねぇんだよ!」

「起こしたよ!起こしたけど起きなかったじゃん!」

慌ただしくトイレから出てきた彼と、歯磨きをしているわたしはお互いに睨み合った。文句を言いつつ、バタバタと身支度をする。さっきまでの甘い雰囲気が嘘のようだ。

「やべぇ!マジで遅刻するっ!」

「げっ!電車間に合わないよっ!」

壁掛け時計に目を向けて、悲鳴じみた奇声をあげながら、各々服を着替えて荷物を持つと、二人で玄関へダッシュする。
狭い玄関で我先にと靴を履き、家の外に出たわたしは彼を振り返った。

「忘れ物はっ!?」

「ないっ!!」

「じゃあ鍵閉めるよっ!!」

言うが早いか、わたしは鍵穴にキーを差し込む。慌てているせいか上手く回らない。

こんな時に限ってもうっ!とイライラしながら悪戦苦闘しているわたしの背中に、彼の声が飛んでくる。

「戸締まり任せたっ!お先っ!」

ビックリして振り返った時には既に彼は走り出したあとで、階段を駆け下りていく広い背中が視界に入った。

「えっ…ちょ、ちょっと待ってっ!ズルイよッ!」

やっとのことで鍵をかけ終えたわたしは全速力で彼のあとを追いかける。

エントランスを抜けた時、彼は駐車場へ走っていく所だった。

「もうっ!卑怯ものッ!?」

腹の虫が収まらず、わたしは彼の背中に向かって怒鳴りつけた。
当の彼はわたしの罵声を気にする様子もなく、振り返って余裕の笑顔を見せる。

「鍵、サンキュー!仕事頑張れっ!!」

呑気にヒラヒラと手を振る彼の姿を見ると、ついつい頬が緩んでしまう。何だかんだケンカしても、結局最後には許してしまうのだ。

わたしも笑顔で手を振り返し、車に乗り込もうとする彼に声を張り上げる。

「そっちこそ、仕事でケガしないでよ!?」

彼は笑い、りょーかい!とふざけた様子で答えてくれた。そのまま車に乗って駐車場から出ていく。
わたしの前を通り過ぎる時、クラクションを軽く2回鳴らした。彼が出掛けるときの挨拶だ。

わたしは車に微笑みながらまた手を軽く振ると、踵を返し駅の方へ向かって急いで走り出した。



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