《MUMEI》

一瞬、切っ先がブレた。相方が立ち上がったのに気を向けたのだろう。

その僅かな隙に、ためらい無く駆け出した。

一歩目を見逃した。この瞬間に意識を集中させなければならなかった。駆け引きは、一番最初が大事なのだ。

慌てて剣を振る。たがすでに剣の間合いよりも近い位置まで潜り込んでいた。

軽く避け、カウンター気味なパンチを顔に入れる。

よろめき、体勢を崩した。そこを大外がりで倒す。

ソイツの確認はせず、足を引きずっているもう一人に向く。

剣を構えてはいるが、どうも怯えているように見える。無理をすることは無いだろう。

周囲を警戒したまま、彼は彼女に近寄る。一人は寝転がっているが、警官が何か叫んでいた。

首を傾げる。その後に着けている首輪を指差し、耳を見せた。

どよめきが起こる。今更ただの人間だと気付いたのだろうか。

倒れている彼女を背負い、来た道を引き返す。

彼が近付くと囲んでいた群集は左右に割れ、道を譲る。

「こんな散歩は初めてだ…」

痛みをKIAIで堪え、屋敷に向かった。

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