《MUMEI》

ふらふらとした足取りで屋敷に辿り着き、何とか彼女を部屋に運べた。途中で出会うメイドさん達は、驚きはするが手を貸してくれなかった。

冷たい対応すぎる。というかこの家の長女なのにこの扱いですか。

ベッドに寝かし、水とタオルを用意する。

濡らしたタオルでそっと顔を拭く。とても疲れたような表情だった。

あの腕を魔法で治療すると、こうなるということか。となるとあまり怪我は出来ないし、させれない。

考えながら、いつの間にか彼女の頭を撫でていた。

それのおかげか分からないが、彼女は目を開けた。弱々しく動く口が、衰弱しきっているのを目立たせる。

(参ったな。何すりゃいいんだ?)

ぐぅ、と彼の腹が鳴る。そういえばまだ何も食べてなかった。

適当に紙を取り、食事をしようと書こうと辞書を探し、気付いた。

(無い…だと…?)

非常にマズい。意志の疎通が出来なくなる。自分の意見が届かないのは死んだも同然だ。

慌てて周りを荒らし回る。本や紙束が散乱し始めた。

少しした所で彼女が声を出し彼を止めた。持っていた辞書を渡し、紙に文字を書く。

辞書が見つかり、彼は歓喜する。そしてすぐに書かれた文字を解読した。

『お腹空いた』

そうりゃそうか。

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