《MUMEI》

 「……で?見事に風邪引いた、と」
翌日、夕方
仕事帰り、いつも通りに恋神神社を訪れた三原
普段なら境内の掃除に忙しなく働いている安堂の姿がこの日はなく
どうかしたのか、と気に掛り社務所を覗いてみた
どうやら昨日、縁側で寝てしまったのが原因か、風邪をひいてしまったらしく
布団に包まっている安堂の姿があった
「……ごめん、なさい」
心配に溜息混じりの三原へ、申し訳なさげな安堂
すっかり顔を伏せてしまった安堂へ、三原は困った様な笑みを僅かに浮かべて見せる
「……お前、メシは?」
「え?」
「……夕飯、食ったのか?」
部屋を見回し、それらしきモノがない事に気付き聞く事をしてみれば
安堂はゆるり首を横へ
三原は僅かに溜息をつきながら徐に背広を脱いで置きながら
シャツの袖を捲りながら台所を借りるとの旨を告げ其処へ
「あ、あの……、倖くん?」
「何なら、食えそう?」
「……?」
「作ってやる。何が食いたい?」
簡単なものしか作れないが、と笑う三原
その笑みに安堂も釣られ
僅かに笑って返してやりながら何でもいいとだけ返した
「何でも、か。なら、お粥でいいか?」
「はい」
短い返事を返せば、作り始める音が台所から聞こえ始める
手際よく動く後姿
三原が自分の為に、と動いてくれている事が素直にうれしかった
「出来た。どーぞ」
鍋と椀、そしてレンゲを盆に載せ三原が台所から戻ってくる
粥をよそいだ椀を差しだされ、それを受け取れば
それがほかほかと美味しげな湯気を立てている
食欲などなった筈なのに、これならば食べられそうだと
安堂は、いただきますと両の手を合わせる
「……美味しい」
一口食べればそれは安堂好みの味付けで
さして無かった食欲が戻ってきた
「……ゆっくり食えよ。火傷するぞ」
勢いよく食べ進める安堂へ、一応言ってやれば
だが既に遅く、熱い、と一言で口元を押さえている安堂と眼が合った
「言ってる傍から……」
苦笑を浮かべながらも、三原は水の入ったコップを安堂へ
受け取り、それを一気に飲み干すとホッと一息ついていた
暫くの間、何を思うのかコップばかりを眺める安堂
どうしたのか、とその顔を覗き込んでやれば
「!?」
安堂の頬を、不意に涙が伝った
突然のぞれに三原は当然驚き、珍しく慌てた様子を垣間見せる
「あ、あれ……?何で、私……」
泣いてしまっている事にその時気付いたのか
すっかり濡れてしまった頬へと指で触れ、それを実感する
「ご、ごめんなさい。私、何でもないんです……」
「そんな訳ないだろ」
何の原因も無いのならば泣く筈はない、と
三原が更に顔を覗き込めば
安堂は困った様な笑みを無理やりに浮かべて見せた
ソレが見るに痛々しい
「……だ、大丈夫です。本当、平気ですから!」
無理を更に続け、強張ったままの笑みはそのままの安堂
大丈夫、と言い切られてしまえばそれ以上立ち入る事など出来ずに
三原は何を言う事もしないまま
食事を再開した安堂の横顔を、唯眺めていた……

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