《MUMEI》

だが所詮はヒトの成す事、綻びができない筈はなく
急ぎ過ぎたその変化はヒトの身体をも蝕んでいった
ソレが白化
著しく変わる環境に身体は付いて行けず
関わった人間の身体はまるで退化の途を辿るかの様に全身徐々に骨と化して行った
このままでは計画そのものが流れてしまう
そう危機感を抱き、どうにかその白化を食い止めようと研究者達は薬物での抑制を試みた
だがその効果はなく、唯強い後遺症だけが皆に残り
その所為で白化は更にその速度を増して行った
手の施しようがないと、皆が諦めかけていた時
白化を遅らせる事の出来るモノを近藤が発見した
ソレが、白化により息絶えた者の中に出来ていたらしい後にB・Sの原石となるそれ
白化の進行を極めて高い確率で食い止める事が出来る事が研究の最中解り
ソレに怯える研究者たちがソレを求めない筈がない
挙句は互いに奪い合い、そして殺しあった
その騒動の中、近藤はその元凶である原石を偶然其処に居合わせた赤子の体内へと潜ませた
せめて、この子供だけでも救われてくれれば、と
そう、思っていたのに
「……姉も、義兄も。その騒動の中死んだ。結局、B・Sは何も救わない」
嗚咽に声を洩らす相手
近藤は兄を返す事も出来ず、唯語るその声に耳を傾けてやるしか出来ない
「これ以上、苦しむ位なら、いっそ――!!」
言い終わると同時に、女性が取って出したのはナイフ
ソレを一体どうするつもりか
気が付いたのと、女性が動いたのがほぼ同時
刃物は羽野へと向けられ、その身体を差し抜こうと迫る
距離が縮まれば縮まるほどに
羽野は動揺してしまっているのか、嫌々と首を横へ振り
素早く踵を返すと、その場から走り出した
「秋夜!!」
全身の痛みに咄嗟に追いかける事が出来ず
近藤はナイフを握りしめたまま立ち尽くすばかりの女性へと一瞥をくれてやり
だがそれ以上は何を言う事もせず、近藤は羽野の後を追った
痛む身体を引き摺りながら、何とかその姿をまた探して回る
その後ろ姿を見つけ、追いかける最中
羽野が何所へ向かおうとしているか、近藤は気が付いた
目の前に広がる厚い壁
ソレは、新都市と旧都市を隔てるモノ
これ以上行かせてはいけない、と
近藤は羽野の腕を掴み、引き留める
その近藤の腕を振り払おうと羽野はもがく事を始め
傷を負い過ぎた身体ではそれを抑える事が出来ない
「秋夜!待てって!」
何とかソレを押さえつける様に背後から抱きすくめてやれば
秋夜は前方を見据えながら、ある一点ばかりを見据えていた
一体、何を見ているのか、目で追いかけてやれば
「……秋、夜」
壁に寄り掛かる人の影を見つけた
掠れたその声は段々と近く寄り、遠目では解らなかったその姿をはっきりとさせる
その人影は、和人
だが、最早その面影が残っているのは顔のみで
他は白化が進み、骨と化してしまっていた
内臓が剥き出しに、血生臭い臭いを唯問わせている
「秋、夜ァ……。助けて、くれよ。なぁ、秋夜ァ!」
覚束ない足取りでにじり寄ってくる和人
その脚も最早まともに動く事は無く、途中倒れ込んでしまう
地べたに這いつくばっても尚、羽野を求める和人へ
羽野は明らかに怯えた様なソレを浮かべて見せた
「……秋夜。とにかく、此処から離れるぞ!」
これ以上、羽野をこの近くに置いておくべきではない、と
近藤は羽野の身体へと寄り掛かりながら身を翻し
逃げる様に、その場を後にしたのだった……

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