《MUMEI》
面接
蓮の思考は理解に苦しんだが、こんなに必死な蓮も珍しいし、どんな女なのか直接見てみたくなった俺は、蓮とその店に面接に行くことにした。














「ヤバい、俺、ホストんときの面接より緊張してるんですけど」

面接当日、待ち合わせ場所に車で迎えに行くと、車に乗り込むや否や蓮は、固い笑顔で言った。
その表情は、まるで中学生が初めてのデートに行くみたいで、可笑しくて俺は笑っちゃいけないと思いつつ、吹き出してしまった。

「緊張しすぎだろ」

店に着くまでの間、蓮は何度も「緊張する」と言っていた。
そして店に着くと、小さな声で「よしっ!」とか言って、店に入って行った。



店内は思ったより狭く、キャバクラというよりスナックのような雰囲気だった。
なんだ…俺が働いてた店のがデカいじゃん…とか思いながら、三十代前半くらいの男に連れられて、店の裏に入った。



簡単な説明をされ、履歴書を書かされ、名刺を渡された。

「じゃあ、明日からでいい?」

男に言われ、俺たちは「はい」と返事をして、店を出た。
ボーイなんてパシリみたいな仕事、もっと細かい決まりごとがあって面倒なのかと思ってたのに、ホストの面接と大して変わらない適当さに、拍子抜けした。
ホストと違うのは、女に手を出すなということくらい。


稼ぎは違うけど、これも経験か…なんて思って蓮を見ると、蓮は酷く落ち込んでいた。

「なんだよおまえ、負のオーラすげぇんだけど」

そう笑うと、不貞腐れた子供みたいに、蓮が言う。

「…だって…女の子に手出したら罰金とか…」

「いや、おまえアホだろ?ホストやってたらそんくらいわかるルールだろが」

「いや、忘れてたんスよ」

「嘘つくなよ…知らなかったんだろ?」

「知ってましたよ〜!も〜なんなんスか?」

蓮が俺の肩を叩いた。

「うわっ、おまえ八つ当たりすんなよ、金かけずに知り合えんだからいいだろ」

「知り合えたって進展ないじゃないスか」

蓮が口を尖らした。

「客で知り合ったって客から進展できねぇんだから、それよりマシだろ、辞めちゃえば進展あるかも知れねぇんだし、送迎もすんだからチャンスはあんだろ」

「…そうッスかねぇ」

腑に落ちない様子の蓮を家に送り、俺は家に帰った。

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