《MUMEI》

『持ってくる』

書いた紙を見せると、すぐに部屋から出る。昨日くらいに調理場の場所は案内してもらっている。

多少迷いながら調理場に着くと、中では何人かがせわしなく動き回っていた。

いくつか料理の乗った皿が置いてある。こっそり味見しようとしたら睨まれた。つまみ食いは厳禁らしい。

鍋を振るったり、材料を切ったりしているのを見ていると、いつの間にか皿が沢山増えていた。

(…旨そう)

涎が零れそうになるほどにそそる見た目だ。だがそれも台に乗せられ、向こう側にある扉に消えていった。

「優しくねぇのな…」

彼は流し台に置いてあった包丁を手に取り、まな板の上に残っていた色々な材料の切れ端を捌き始めた。

切ったそれを使いかけの鍋に放り込み、火を通す。

似たような作業を2、3回繰り返し、残っていた皿に適当に盛った。

「毎日食事当番しててよかった」

それは違うと思う。

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