《MUMEI》

「またかよ…」


久しぶりに会うのに、せっかくの休み(快晴)なのに、

「あ?お前好きじゃん、馬」


デートが競馬場…最悪。


「おら行けーー!!!!
うっし!!」


「…」




最近、ものすごくイライラする。



恋人、羽田安斗(ハダヤスト)にも…


イライラの原因?そんなのわかんねぇよ。なんかすべてにイラつくんだ。

クソつまらねぇ授業も、
キャーキャー寄ってくる女共も、
合コンにしか誘わねぇダチにも、


安斗にも…







「おい、どうした?」

俺が無口になってるのにようやく気付く安斗。

「…別に」

「人酔いしたか?出るか」
そっと腰に手を添えて歩き出す。

その優しさにもイライラしてしまい、俺は早歩きをしてその手から離れる。








「あー疲れた…、ビール飲むか?」

「…いらない」

いつもどおり、自宅まで送られて、当たり前のように上がる安斗。

その当たり前が、余計に俺を苛つかせる。


「腹減ったなぁ…何か作っていいか?」

「…」

「有人(ゆうじん)?」

「…どうぞ」

「……有…、何かおかしくないか?」

「…何が」

「最近、口数少ないっていうか…、俺のこと、避けてないか?」

「…そんなことないよ」

「……」



スッと立ち上がる安斗。

「今日は帰るわ。また連絡する」

玄関に向かう安斗。

その姿を、俺は見ようとしない。


「有人、


風邪引かないようにしろよ

鍵も、ちゃんと閉めろよ」



そう言って、玄関のドアは静かに閉まった。




安斗が出てったあとの静けさ。

時計の針の音と、熱帯魚の水槽のポンプ音しか聞こえない。


安斗の言うとおり、俺はここ最近、安斗を避けていた。

セックスはおろか、キスすら拒んでいた。

おかしいと思うのは当たり前、けど、それでも安斗は俺のそばにいて、笑っていた。

付き合い初めの安斗なら、冗談で怒鳴ってたのに、

何も言わずに、ただ俺の様子を伺っていた。

最近の安斗は、年下の俺に気を遣ってばっかだった。


「もう、そろそろ飽きられると思うぞ…」


誰もいないのに、そう語りかけてしまった。

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