《MUMEI》 「久しぶり…」 人間Aは少し戸惑いながら返事をした。 ははん、分かったぞ、その好青年は人間Aの所謂元カレというやつだな。私の予想は的中した。私、占い師なるものに向いているかも、である。 「あれから元気にしてるか?」 「え、ええ」 「ん、犬?お前、犬飼ってたっけ?」 「保健所から引き取ってきたのよ。あまりにも可哀想だったから」 好青年とやらは、私の顔をまじまじと覗き込むようにして見つめた。こういう時、人間はどういう反応をするのだろうか。いやん、あんまりじろじろ見ないで、とか?いやいや、それはあまりにも気色悪いぞ。一人で、いや、一匹であれこれと思考していると、好青年が呟いた。 「しっかしまァ、不細工だなぁ」 カチン、である。私がもし人間だったら『おいコラ、どこ見とんじゃいワレぇ』と怒鳴り散らかしているであろう。まあそれはさておき、好青年は人間Aに何かを話して、手を振り去っていった。 人間Aはというと、一人浮かない顔をしていた。 全く、こんな空気の薄汚れた外界でそんな顔をするもんじゃない。優越に満ちた表情をしたエリート人間たちに、冷ややかな目で見られることになるぞ。とはいえ、人間Aは私がじぃっと見つめるものだから、スイッチが切り替わったかのように、ぱっと笑顔を顔に張り付けた。 「さあ、行きましょ」 無理しているなんてこと、一目瞭然である。 私は人間Aの隣を一ミリも離れないように、細心の注意を払い、外界を疲れきるまで歩いた。 前へ |
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