《MUMEI》
僕だけ
陽菜のその表情に、不安感が押し寄せる。



単なる噂じゃ……ない…?



「…そう…、陽菜は汚いことしてきたんだね…」

真鍋だけじゃない。


陽菜が初めてじゃないと、そう言ったときから想像はできた筈なのに、僕の体はその事実に対応できるほど丈夫じゃないらしく、脈がどんどん上がっていく。
僕は自分を落ち着かせる為に体を起こして、陽菜を背にするようにベッドに座った。

「真鍋にも汚い中年のオヤジにも体許して…気持ち良くなってきたクセに、僕はあんなに抵抗したんだ?」

目頭が熱くなって、視界がぼやける。

「僕だけなのに…陽菜を守ってきたのは僕だけなのに…」

真鍋なんて、陽菜のことを知らない。
陽菜を買ったオヤジたちだって、陽菜を知らない。

「ずっと一緒にいたのは僕なのにッ!どうして僕だけ嫌がるんだよ!僕にもしてよ!他の男たちにしてきたみたいに!僕のこと求めてよッ!!」

どうして陽菜は、僕だけのものにならない…?

「………季」

奴隷になるって言ったのに…。

「……季」

陽菜を愛するのも、傷つけていいのも、僕だけなのに…。

「眞季」

弱々しいのに、強く僕を呼ぶ声に振り向くと、陽菜が僕を見つめていた。

「…初めての相手は……眞季だよ」

陽菜の子供騙しのような嘘が、僕を冷静にさせた。
惨めな気持ちなのに、笑いが込み上げる。

「はは…、僕は陽菜を守ってきたんだよ…大切にしようって思ってたんだ…」

「わかってる…ちゃんとわかってる…」

「僕には陽菜だけだから…」

「いっかい、ちゃんと話そう?これ…外して?眞季とちゃんと話したい」

強張った笑みで陽菜が言った。

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